第5話 脱走

 受付に行って銅貨1枚を払い、銭湯に行く。


 といっても俺たち奴隷が入れるのは観客様用の温泉ではなく、奴隷専用の温泉だ。小さいころ行った銭湯のお湯は透明で澄んでいて壁には素晴らしい絵が描いてあった思い出があるが、ここの温泉は違う。


 まず入った瞬間漂う異臭。そしてお湯の色を見れば真っ黒に染まっている。…考えたくはないが、おそらく主成分は血だろう。


 いつものようにまず備え付けられているこれまた黒い石鹸を使って体を泡立たせた後、温泉から桶でお湯(?)を汲み、体を洗い流す。


 その後、隣の部屋の水の色が比較的ましな大浴場に行きしっかりと体をつからせる。


「ふー」


 生き返るなあ。目を瞑りながらぼけーっとする。


 ちなみに大浴場は男女混合なので勿論見渡せば女もいるだろう。


 しかし、俺は目を瞑り続ける。なぜか。


 ここにはゴリラ女しかいないからだ。しかも目を開けていたら勘違いされリンチされる。


「あんた私たちの事見てたでしょ⁈」


「み、見てな……ひっ、ひいいい」そう、あいつみたいに。


 可哀そうに、入ってきたばっかりの奴だろう。皆経験した通過儀礼だ。頑張って生き延びろ。



 服を着替えていると、顔をぱんぱんに膨らませた男が縋り寄ってきた。


「助けて、殺される!」


 さっきのやつか。


「大丈夫だ、流石にこっちの男子更衣室までは奴らは入ってこれねえよ」


 そう言うと安心したのか男はその場で気絶した。顔をみて気づく。


 こいつ、廊下で行きたくないって騒いでたやつか。


 少し哀れに思ったので受付の人に協力してもらい、服を着せ、治療室まで送り届けてやった。


 我ながら優しすぎやしないか?



 ---


「ヒーリング、アンチレスト」



 はっ⁈ここはどこだ。ああ、治療室か。でもどうして。


「銅貨10枚」


「え、なんでえ⁈」



 ---


 いいことをした。きっと明日の寝覚めは最高だろう。


 そう思いながらベッドに寝っ転がる。おやす…み……zzz




 カーンカーンカーンと金属と金属をぶつけ合うような甲高い音に目を覚ます。


 見張りが騒ぎながらどっかに行ってしまう。確かこの音は誰かが脱走した合図…だった気がする。


(全員で行くって、そんなにやばい奴が脱走したのか。)


 まあ、俺には関係ないなと思いながら再び二度寝をしようとした丁度その時窓からコツンと音が聞こえる。


 なんだと思って窓に近付く。今度は二回コツンコツンと聞こえてきた。


 窓を開け外を覗こうとすると、すごい勢いで何かが飛んできた。


 拾ってみると、飛んできたのはぐしゃぐしゃに丸められた紙だということが分かる。なんだと思いながら開くと


『俺らと一緒に脱走しないか?』


 ……窓から下を見下ろすとライアンが腕を組みながら立っていた。隣にいるのはさっきの男か?! あいつらかよ脱走犯……。



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