第4話 実践

 ライアンと少し手合わせをした後、練習場を出ようとするとなにやら廊下が騒がしいことに気付く。


「いやだ、行きたくない!」


 見張りの男に引きずられながらみっともなく喚く男が目の前を通り過ぎていく。


(見たことない顔だな)


 おそらくまだ入ってきたばっかりなのだろう。さしずめ前回の試合で殺されかけトラウマを植え付けられた、といったところか。


 昔の自分を思い出す。俺もたしかあんな感じで騒いでたっけな。流石に2ヶ月たったら馴れたけど。


 同情した目で少しだけ男を見つめていたがすぐにその場から立ち去る。


 部屋に戻り床上で、胡座をかきながら部分強化の練習をしていると見張りから声をかけられた。どうやら出番が回ってきたらしい。身支度を済ませドアを開き会場へと向かう。丁度良い、全身強化しながら歩いて向かうか。……いやムズ。




「続いての対決は…おっと、これは珍しい! 猛獣と人族の組み合わせです! では早速行って参りましょう、ゲートオープン!」


 観客が一斉に盛り上がる。


「東側、ナハル砂漠の猛獣 テツサソリ!」


 ドシン、ドシンと音を立てながらゆっくりと這い出てくる。甲殻は銀色に輝いており、手に持つ大きなハサミは固い岩でさえも砕くことが出来そうだ。


「西側、今日の大穴場。人族クルト!」


 観客席からヤジが飛んでくる。


 今回もボロクソ言われているが今はそんなのに構っている暇はない。少しでも意識を向ければ全身強化が解けてしまう。


 鐘の音を待ち続ける。まだか、まだなのか。鳴った!


 鐘の音が聞こえた瞬間俺は足に力を入れ走ろうとする。が、気付けば俺は3mくらい浮いていた。へ?


「うおぁーー!?!?」


 両足で着地する。なんだこれ、糞扱いづれえな!?


 気付くと目の前に蠍の尻尾が来ていた。


 さっきの要領で飛びはねて避け、後ろに下がる。




「なんださっきからあいつ跳び跳ねてばっかじゃん」


「バッタみたーいw」




 別に俺だって好きでやってる訳じゃねえよ、と思いながらもう一度足に力を入れる。今度は少し弱めて水平に力が加わるように…


「っと」


 大体5歩程度で蠍の後ろを取れた。


 剣を構える。


「背中ががら空きだぜ!」


 勢いよく背中に飛びつき剣を突き立てる。しばらくのたうち回っていたが更に奥へと突き刺すと次第に動かなくなっていった。剣を抜く。




「勝者クルト!」




「旨すぎ!」


 今日もガッツリ稼がせてもらった。銅貨80枚。そして今食べているのは海鮮丼だ。銅貨5枚。


「ごっさんです」


 返却口においてから、ベッドに寝っ転がる。そして思った。


 …さすがに4日風呂入ってないのはまずいか。臭すぎるな。


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