第3話 友達
深化。聞いたことがない単語だ。顎でライアンに説明を促す。
「深化っていうのは冒険者用語なんだ。ほかにもいろいろと呼ばれ方はあるらしいんだけど……とりあえず今はいいか。そんでね、死にかけた人間が運よく生き延びた時に時々すごいパワーアップすることがあるんだよ。そのことを僕らはいつからか深化って呼びはじめた。」
「つまり俺は手洗い場で一回瀕死になりかけた後、じいさんから治療を受け生き延びたことで深化したってことか……?」
なるほど、こいつみたいな化け物が時々闘技場にいるのは何故なのかとずっと疑問に思っていたが、そういうことだったのか。
「聞かれてないけど勝手に言うと、僕は四回深化してる」
…。こいつ、確か俺の5つ上くらいだよな? 今までどんな人生送ってきたんだよ。
「ちなみに歴代トップの冒険者は10回らしいよ。どれだけ強いんだろうねえ。一回でもいいから手合わせしてみたかったなあ」
後で話を聞くとどうやら今の時代の冒険者トップは8回らしい。俺からすればそこまで変わらかったが、どうやら深化一回で約二倍の差が出る為、雲泥の差があるのだとか。
ライアンは次の試合に出るらしく、準備してくると言って出ていった。
誰もいなくなったので、素振りを始める。
はじめての勝利とライアンから聞いた興味深い話。
なんだかわくわくしてきた。明日の試合が楽しみだ。
目を覚ます。見知った天井だ。
「銅貨五枚」
「…なんか高くなってねえか」
「前までが安すぎたんじゃよ。それにお前さん最近がっぽり稼いだんじゃろ?
そこまで払うのも大変じゃあるまい」
「何で知ってんだよ…」
ため息を吐きながらポケットに手を突っ込む。結局こうなりそうなのを予見して銅貨数枚を入れておいたが、まさか五枚とは。…丁度だった。
毎度ー、という声を背中で聞きながら部屋に戻っていく。
昨日の試合で感じた高揚感はそのままに威勢よく今日の試合に挑んだはいいものの、結果としてはエルフ族の奴にコテンパンにボコされた。空に浮かびながら魔法撃ってくるのはずるいだろ。あんな奴こっちも魔法を使えない限り勝てるはずがない。
…深化した今の俺ってもしかして魔法使えたりするんかな、ライアンに聞いてみるか。どうせ、練習場にいるだろう。
「うん、無理だね」
「む、無理か」
ばっさりと切り捨てられ少しショックを覚える。まじか、魔法使えたらこれからの戦闘がかなり楽になると思ったんだけどな。期待して損した。
邪魔して悪かったと言って戻ろうとすると呼び止められる。
「魔法は使えないけど、闘気なら今のクルトでも扱えると思う」
と、言うことでライアンから魔法の代わりに闘気の使い方について教わった。悔しいがライアンの説明は非常に分かりやすく、すぐに扱えるようになった。
まず体の中心にある暖かいものを意識し血管を経由させるイメージで徐々に全身に行き渡らせる。
これが闘気を用いた「身体強化」というものらしい。
「全身に行き渡っていく闘気を押し留めて一部分にだけ流すのを「部分強化」って言うんだけど、流石にまだ出来ないかな」
「そんなのやってみないと分からねえじゃねえか」
そう啖呵を切ったはいいものの。やろうとしてみるがなかなかこれが難しい。体感難易度としては水が一杯に入っているコップを溢さないように持ちながら全力疾走している感じに近い。
まあそのうち出来るようになるさ、と言われながらにこやかに肩をポンと叩く。すごくウザい。
「…まあそのなんだ。ありがとな、教えてくれて。正直分かりやすかった」
「イヤだなあ水くさい。僕たちは友達じゃないか。困った時は助け合う、礼なんていらないよ」
「俺たちいつ友達になったっけ?」
なにやらショックを受け呆然と立ち尽くしているライアンを横目にみながらふと考える。
……友達、か。
そういえば、闘技場にきてからまだ一人も友達ができていない。以前は幼馴染みや学校の友達などがいるにはいたが、親に奴隷として売られ精神的に荒んでいた俺は、ここでまた新しく作ろうとする気にはなれなかった。
正面から、ゆっくりと手が差し出される。
「では改めまして。僕の名前はライアンと言います。クルト君、僕と友達になってくれませんか」
「この流れで 僕と友達になってくださいとか精神図太すぎんだろ。…ああ、よろしくライアン」
そういって俺はその手を取った。
なんだか荒んでいた心が少しだけ潤ったような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます