第9話 投~toss~

 僕――星井照ほしいてるはちょっと普通とは違う高校2年生。

 今の僕は怪人を倒す断斬だんきというヒーローのようなものだ。

「後輩ちゃん来て良かったじゃないか」

 友人の東雷豪あずまらいごうが話しかけてくる。

 こいつのいう後輩っていうのは森井華もりいはな、しかし森井さんはある男に利用され怪人になってしまった。

 僕は森井さんと同じ目にあっている人を助けるたまに最近は怪人と戦っている。

「そういえば最近あそこの寿司屋が前よりも美味しくなったらしいわよ」

 そう言ったのはもう一人の友人の藤野天狐ふじのてんこ、この学校に転校してきた女子だ。

「もしかしたら何か気づきがあったのかもね」

「今度みんなで行こうよ」

「回らない寿司って意外と高いんだけど……」

「まぁまぁ、行けるでしょ」

 そんな話をしてる時

「星井先輩いますかぁ?」

 森井さんがクラスを訪ねに来た。

「こっちこっち!」

 東がこっちに呼ぶ。

 事情を知らないしょうがないにしろ余計なことを……

「先輩!」

『私の物になって?』

「え?華ちゃん?」

 藤野さんが困惑の言葉を発したと同時に怪人態になりこっちにつかみがかってくる。

「危ねぇ!」

「ここ学校やぞ!」

『だからどうしたというの?』

『貴方を手に入れるためならどんな手段も選ばないわ!』

「変わっちまったな」

『こっちが本当の私よ!』

「そうか……残念だ」

「照?これ一体どういうことなんだよ」

「華は前の寿司屋でもらったリングの影響で怪人になったんだよ」

「この前大量に人が休んでただろ?」

「それも女子だけ」

「多分その大半はこのリング持ちだ」

「マジかよ、そんなのって」

「あるんだよ」

 しかしどうしたものか、人前だと断斬にはなれない……

「まぁ逃げ一択か!」

 華からバックステップで距離を取り距離を詰めてきたところをサイドステップでかわしその後ろへ逃げていく。

『待ちなさい!』

「そう言われて待つアホがいるか!」

 そういや魔狐まこに面白そうなもん作ってもらったんだっけ。

「よいしょっと」

 背中に追加ブースターを背負う……あいつなんでこんなもん作れたんだ?

「グッバイ!華!」

『逃しはしない!』

 大量の光弾を放ってくる。

「周りへの被害はお構いなしかよ!」

 後ろを振り向きながら言う。

「このぉぉぁ!」

 ブースターを下へシフトし段々と上昇し始める。

「屋上でケリをつけてやる!」

 ガッシャァァァン!と窓を割り、そこから反転、上昇し屋上へ着地する。

『今度こそ……貴方を手に入れる!』

「やってみろよ……華」

『今の私はブーケトスよ!』

「かかってこい!」

 背中のブースターから剣を取り出し構える。

『人間のあんたに!』

「負けるわけがないって?」

「やってみないとわからないもんもあるぞ!」

 ブースターで加速し全力で飛びかかる。

『当たるわけ!』

 勿論回避されるが、その方向へ剣を薙ぎ払い当てる。

「軽いな!」

『なるほど?確かに舐めてたかも』

 本当はぜろと融合して分離させて倒すのが一番なんだが、一旦ここから撤退させないと被害が出る。

 だから倒し切らないように気をつけないと。

『そんなブースター!壊してやる!』

「やってみろってんだ!」

 そうして互いの近接攻撃がぶつかり合い弾き飛ばされる。

 しかし、何あれ!やらすごい!やら観客が増えてきたな……どうしようか。

『私があそこに攻撃したらどうなるんでしょうね』

「お前まさか!」

『ブロッサム・ストライク!』

 ブーケトスがエネルギーを溜め見に来た人たちの方へ向ける。

「やめろ!」

『発射!』

「ブースター全開!」

 最大出力で加速し、ビームを追い越しみんなの前に立ち、もろにくらってしまう。

「ぐっ!がぁぁぁぁ!」

 ビームの勢いはすごく、扉を突き破って壁に叩きつけられそこには軽いクレーターができていた。

「くっそ……これを見越して人前で戦闘したのか」

『やっと貴方が手に入る……あの人と共有なのは悲しいけど、まぁ手に入るならこの際どうでもいいわ』

 ゆっくりと近づいてくるブーケトス。

「あの……人?」

「って哀か!」

『それがわかったところでもう貴方はどうしようもないの』

『大人しく連れていかれ――』

 ザシュッとブーケトスの腕を斬りつける。

『なに……これは?』

 みんながいた方から飛んできていたそれは

「刀?」

「それを使え!星井!」

「玲!」

 叢雲玲むらくもれい、俺が断斬になることになった原因の刀が人間になった姿、どっちが本当の姿かはわからないけど。

「よっしゃあ!」

 刀を引き抜き再度ブーケトスを斬りつける。

『小癪な!』

「ふん!堕天したやつに言われたかないね!」

「星井!速化チューンアップ・スピードだ!」

「よっしゃ!」

「速化!」

 断斬のフェーズ1のような速度で高速移動する。

『貴方人間のはずじゃ!』

「さぁな!」

 実際は多分玲がこの刀を通して力を使えるようにしてくれてるんだろうけど。

「お前はそれを理解する必要はない!」

断罪剣・炎だんざいけん えん!」

 いつものように炎を纏わせた剣で切り付ける。

「照……お前一体!」

 東が聞いてくる。

「俺は俺だ!それ以上でもそれ以下でもない!」

「ブーケトス!お前を助ける!」

『どの口が!』

『さっき私にやられそうになっておきながら!』

「そりゃ慣れてない装備だったからな」

「これなら、お前に負ける道理はない!」

『人間如きが!』

 光弾をこれでもかと打ち込んでくるブーケトス。

「なんであいつは怪物の言っていることがわかるんだ?」

「多分私がつけてるネックレスと同じ効果の物をつけてるんじゃないかと」

「天狐がこの前買ってたやつ?」

「多分、あの雑貨屋によく行ってみるみたいでしたし」

「なるほどねぇ」

 そんな会話を横目にどんどん加速し光弾を避けながら

接近していく。

『ちいっ!』

 人をかき分け屋上に改めて着地するブーケトス。

「自分から開けたところに行くとは」

「そんなに俺と正々堂々勝負がしたいか!」

『貴方を真正面から倒し、手に入れる!』

「ザビ・セブ・ガガ・ジオ・ギル!」

「はぁっ!」

 刀に緑色のエネルギーを纏わせ

断縁斬だんえんざん!」

 ブーケトスの体を真っ直ぐに斬りつける。

『何もないじゃないか!驚かせ……て?』

 その瞬間、斬りつけた跡から華か排出される。

『何故……何故分離したのだ!』

「めっちゃ練習したんだぜ!」

「これでもう心置きなくお前を倒せる!」

『人間如きが!』

「それ一辺倒だな!」

断影剣・嵐だんえいけん らん!」

 竜巻を刀に纏わせて、切り捨てる。

『貴様……いつか後悔することになるぞ!』

 そうして消えていくブーケトス。

「後悔かぁ……もうしてるんだよなぁ」

 消えたと同時に色々な生徒が質問攻めにしてくる。

 やれどうやったの、やれどうしてそんなにすごいのやら。

「面倒くさいよ~」

「玲、助けてくれ~」

「私も同じ目にあってるんだから許せ」

 結局、大事なこと(例えば俺が断斬ということや玲が零ということ)を避けつつ、刀のせいにしてどうにか切り抜けたのだが、結局みんなから一目置かれるようになってしまった。

「すっかり人気者だな、照」

「揶揄うなよ東」

「だけどよくあの怪物相手に丸腰でも恐れずに避けて冷静に対処できたな」

「お前といる時以外にも襲われるせいで気づいたら冷静に対処できるようになったんだよ」

「慣れって怖いな」

「そりゃな」

「はぁ……平和な日常生活が消えてしまった」

「まぁでも」

「照先輩!」

「遊びに来ちゃいました!」

「華が無事に元に戻ったんだし、いいか」

「今私のこと褒めました?!」

「褒めてない」

「なぁ照、後輩ちゃんお前に懐きすぎじゃね」

「マジでそれ、なんか助けたからとかなんとか」

「全く、自分の命の恩人を嫌う人がいるわけないでしょ!」

「それだけに感じないんだが……後輩ちゃん、まさか」

「もちろん!貴方へのこの気持ちはもう抑えません!」

「あぁなったのは他の人への嫉妬でした」

「でも自分からどんどん突っ込めば問題ないって気づいたんです!」

「その気づき必要だったか?」

「良かったじゃねぇか照、あいつのこと忘れられるんじゃないか?」

「忘れられねぇっての」

 だって、華がああなった原因があいつなんだし。

「次は小雨こさめちゃんをお願いしますね!」

「おう!まかせろ!」

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