五月雨とストレイキャッツ
粟野蒼天
野良猫
着崩した制服。ボサボサの髪。左手にはビニール袋。
コンビニで売っていた100円のビニール傘を指しながら、俺は人気のない商店街の裏道に入っていく。
ある冷房機の前まで行くと、そこで俺は足を止めた。ビニール袋から猫缶を取り出して冷房機の前に置いた。
「シロ〜おいで〜」と小さな声で呼ぶと「にゃ〜」と小さい鳴き声と共に一匹の白い子猫が冷房機下から姿を表した。
シロとは俺が子猫に名付けた名前だ。安直過ぎるかもしれないけど良い名前だと思っている。
俺が猫缶を開けるとシロは待ってましたと言わんばかりに猫缶に飛びついた。
シロの毛を撫でながら俺は、その場に座り込み猫缶と共に買ったジンジャーエールを開けて飲み始めた。
雨の音が心地良い。心が和む。唯一この時間が俺に安らぎを持たしてくれる。
◇
俺がシロと出会ったのは1ヶ月前、今日と同じく雨が降っていた日だ。
慣れない高校生活に疲れ切っていた俺はなにも考えずにただ歩き回っていた。
今考えてみたらヤバいやつでしかない。
疲れ切った俺は人気のない商店街の裏道に座り込んだ。ずぶ濡れになりながらもただそこに座り込んでいた。
ふいに辺りを見回していた。そしたら俺の横に白い毛玉が転がっていた。よく見たらそれは弱っている白い子猫だった。
(お前も独りなのか?)
「みぃ~みぃ~」と弱弱しく鳴く姿を見た俺は何を思ったのか、近くのコンビニまで行き、そこでタオルや猫缶などをいろいろ買っていた。何をしたいのか分からずに子猫のいたところに戻った。
子猫の身体を入念に拭き、猫缶を食べさせた。これであっているのか分からなかった。だが必死に猫缶を食べる子猫を見たら少しだけ安心できた。
それから1週間に数回今に至るまで、猫缶と自分が飲む飲み物を近くのコンビニで買って、あの場所に向かった。
シロは呼ぶと必ず冷房機の下から現れた。
シロとこうしている時間は何も考えずに過ごせる。
男子高校生と一匹の子猫。不思議な構図だ。
◇
ジンジャーエールを飲み終えたと同時にシロも猫缶を食べ終えた。
空になった猫缶とアルミ缶を袋に入れて終えるとシロの顎をくすぐる。
「またな」
「にゃ~」
傘をさして俺はその場を後にした。今度は少しいいものを持っててやるか。
五月雨とストレイキャッツ 粟野蒼天 @tendarnma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます