第2話 実験

 冒険者を倒してからどれほど経っただろうか?

 遺体は既に消化されダンジョンのLPへと変わっている。

 骨も残すことなく吸収するとは……ダンジョンとはどうやら大食いらしい。

 そんなことよりも未だに夢から覚めないことから、もしかしてこれは現実ではないのかと疑いたくなる。

 しかし、現実だとして俺の身体はどこだ?

 眼の前には最奥まで一本道の単純な洞窟の光景が示されるのみ。

 

「最奥に設置したスライムが餓死しそうです。餌を与えてください」


 まじか!?

 配置した魔物の世話まで俺がするって?

 それとも餌になるべき冒険者がやってこないからか……うーん、まだまだ謎が多い。

 兎に角、アイテム欄にある肉をそのままスライムの近くに置いてみた。

 ゆっくりと肉に近付き肉を覆うように被さるスライム。

 体内に入れて消化しているのだろう。

 ははっ、世話をしていると愛着が湧いてくるな。


「トラップを準備しダンジョン内に設置してください」


 突然、以前にも言われた言葉を耳にする。

 ふと、ステータスに目をやると……。


 LV 2

 HP 63000

 MP 1000

 LP 2


 HPは時間が経つごとに少しずつ自動回復する。

 もうそろそろ全回復することは分かっていたが……なるほど。

 トラップを作るのにMPを使い、MPを回復するためHPを使う。

 冒険者が来ない中、全回復してしまっては勿体ない。

 

「よし、色々試してみよう」


 アイテム欄を開き勝手に供給される鉄を選択する。

 今回作るのは少し複雑なトラップだ。

 まずは鎖を作る……。

 むむむ、1つずつ形を整えるのが面倒だが鎖は何かと役に立つ。

 よし、天井から垂らして鎖の先に鉄球を設置して……。


 ジャララ……ジャララ……


 鉄球の振子が道行く冒険者の前を阻むかのように左右に揺れる。

 本来なら垂れ下がるだけのはずだが……ダンジョンが勝手にトラップの使い方を理解し揺らしてくれているのだろうか?

 また謎が増えてしまった。

 だが、冒険者が通る時に襲いかからないと意味がない。

 鉄球部分を壁に引っ掛けて……と、よし完成だ。


「鎖と鉄球を記憶しました。以後、自動作成することが出来ます」


「まじか。……以前、作ったトゲの床の時はそんなこと言われていないぞ?」


「最初に作成したトラップは既に登録されています」


 え、そうなの?

 だったら良いや。

 鎖は使い道が色々とあるため自動作成欄に10ほど注文しておく。

 減ったMPを回復して……よし、お次に作るのは魔獣だ。

 スライムだけでは頼りないからな。

 肉を選択し形を整える。

 今回は時間があるみたいだし複雑な形に挑戦だ。


「胴体に頭・両腕・両足、それに尻尾……幼い頃に粘土でよく作ったよなぁ」


 最奥のスライムをダンジョンの通路に移し作った魔獣を設置して……。


「ワーグを記憶しました。以後、自動作成することが出来ます」


 ワーグの作成だけでMPを2000ほど使ってしまった。

 スライムは500MPで済んだことから、こっちのほうが確実に強いことはわかる。

 残りHP40000か。

 まだ大丈夫だよな?

 スライムをもう数匹作りダンジョン内に設置。

 肉はこれで使い切ってしまった。

 あっ、作るのに夢中になって餌のことを忘れていた!

 どうしよう。

 何匹か肉に戻せないかな?

 と思っていたら……。


「肉がありません。作成した魔獣を肉に戻しますか?」


 ほっ、出来るんだ。

 スライムを2匹ほど肉に戻しアイテム欄に入れて……っと。

 おっ、使ったMPももとに戻っている。

 これは今後、使えそうだな。


「冒険者が侵入しました。観測を開始します」


 なんてヌカ喜びしていると敵がやってきたようだ。

 今回もパーティーではなくソロか。

 聖職者のような格好をしている。

 しかも、女性か。


「あはっ、新ダンジョン発見♡ ここはどんな性格なんだろ♪」


 俺はトゲのトラップを以前と同じようにダンジョン入口に設置する。


「おー、生きが良いねぇ♪ じゃ、アタシとのバトル開始だね♪」

 

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