ダンジョンマスター! ~魔王城に至るまで~

昼神誠

第1話 転生したらダンジョンでした

う、ううん……おや?

俺はいつの間にか眠っていたようだ。

ここ一週間ほどほとんど眠らずに画面に向かいゲームに勤しんでいた影響だろう。

ギルド戦が近付くといつもこうだ。

だが、全サーバー内で1位の座を他のギルドに譲るわけにはいかない。

準備は入念にし想定外のことが起こっても対応できるようにする。

そのために睡眠時間を削るなんて安いものだ。

さてと……続きを……なんだか、目が覚めてからおかしい。

ずっと暗い空間のままだ。

目は開いているよな?

え、ええ……身体も動かない?

俺はどうしたというのだ?

まさか、夢の中なのか?


「おはようございます」


 真っ暗な空間に女性の声が響き渡る。

 夢の中でおはようと言われるのは奇妙な感じがする。

 とりあえず俺はその声の者に質問をしてみた。


「ここはどこだ?」


「ダンジョンを起動しますか?」


 ???

 俺の聞き間違えがなければダンジョンがなんとかって……いや、意味がわからん。


「どういう意味だ?」


「ダンジョンを起動しますか?」


 この声の主は言葉が通じないのか?

 まぁ、いいや。

 俺は声の通りに従うことにした。


「ああ、ダンジョン起動だ」


 ヴン


 眼の前に映るのは洞窟?

 全体図が表示されている。

 俺の視点は洞窟全体を斜め上から見下ろしている。

 道は単純な一本道だ。

 これはダンジョンとは言わないだろう。

 単なる洞窟だ。

 最奥にあるのは宝箱か?

 なるほど、初心者用のダンジョンというわけか。

 俺がここに入ると言うことかな?


「それじゃ、ここに潜るからここから出してくれ」


「理解不能。トラップを準備してください」


 いやいや、俺のほうが理解不能だよ。

 トラップって何だ?

 眼の前に映るダンジョンをよくよく見ると小さなマス目がある。

 そして、全体図の外側には奇妙な数字がいくつか。


 LV 1

 HP 58000

 MP 700

 LP 1


 何のゲームだ、これは?

 ああ、そうか。

 やっぱり夢だったんだ。

 夢の中なら声の通り従っておこう。


「俺は何をすれば良い?」


「トラップを準備しダンジョン内に設置してください」


 準備って言われても道具を持つ手もないし……うん?

 全体図の端に何やら奇妙なマークがある。

 そこに目を凝らすと全体図から別の画面が映し出された。

 見たことのない文字だが何故だか読める。

 鉄やら銅やら素材の名前だろうか?

 俺は適当に鉄を選択すると目の前に映し出されたのは大きな鉄のインゴット。

 

「これをどうすれば良い?」


「好きな形へ変形させてください」


 手はないが動かしたい部分を注視すると形が歪む。

 これで形を整えろということか。

 とりあえずトラップの基本と言ってもいいトゲの床でも作ろう。

 イメージをすると自動的にその形へとインゴットが変形していく。

 おお、これは便利だ。


「完成したトラップをダンジョンに設置してください」


 この声の者は単なるアシストなのだろう。

 俺が次にするべきことを前もって言ってくれる。

 再びダンジョンの全体図に戻りトゲの床を設置してみる。

 ダンジョン入ってすぐのところに置いてみよう。

 するとダンジョンの全体図の一部がトゲの床に変わる。

 なるほど大体わかった。

 タワーディフェンスゲームの要領で最奥の宝箱を取られないようにすれば良いのだろう。

 それじゃ、次は別のトラップを……おや?

 アイテム欄から鉄を選びトラップを作ろうとするが何も起きない。


「MPが足りません。HPをMPに変換しますか?」


 ええっ?

 よく見るとMPが700から200まで減少していた。

 長年のゲーマーの感でアシストの言葉から察するにトラップを作るのにMPを使うらしい。

 そして、ここで大事なのはHPをMPに変換することだ。

 HPとは本来、敵から受けたダメージによって減少するもの。

 恐らく、このダンジョンに入ってきた相手から俺は攻撃されるのだろう。

 そう思うと俺は自身の命を守るため適当にやってはいけないことを自覚した。


「ああ、変換してくれ。とりあえず500ほど回復したい」


 500というのは目安だ。

 トゲの床を作るのに500使ったが、どんなトラップでも500MPで良いのかが気になる。

 次に考えたのは天井から落ちてくる氷柱のような鉄塊。

 使ったMPは200で済んだ。

 工程が単純だからか、それとも鉄を使った量に比例するのか……検証するにもHPを見ると5000減少して53000となっている。

 どうやら1MPにつき10HP使用するようだ。

 これは迂闊に変換も使えないな。


「冒険者が侵入しました。最奥にボスを配置していません。至急、配置してください」


 冒険者って……ええっ!?

 まさか、俺と戦う相手って人間?

 俺はすぐに全体図に画面を移し替え見てみる。

 木の盾に棍棒、背中には大きなリュックを背負った男が1人。

 洞窟の入口から中の様子を窺っている。


「こんなところに新しいダンジョンが……成長する前に狩っておくか」


 ダンジョンが……成長?

 夢の中のダンジョンは成長するってことか?

 なるほど……わからん。

 兎に角、俺のアシストがさっきからずっと最奥にボスを配置しろと五月蝿い。

 俺は再びアイテム欄を開いてみる。

 鉄や銅、木片に布……そして肉。

 えっ、肉?

 肉って何の動物の肉なのだろう。

 もしかして肉から生物を作ることも出来るのか?

 俺は肉を選択しMPを使用し変異させてみた。

 そこで分かったのは作る工程が複雑になるほどMPを消費するということだ。

 ワーグのような魔物を作ろうかと思ったが、肉を捏ねて形をまん丸にしただけで500あったMPをすべて使いきってしまった。

 作れた魔物はスライムのような単純な構造の生物。

 どうやら魔物を作るほうがMPを激しく消費するようだ。

 こんなのが最奥のボス部屋にいたらクソゲー認定されてしまうだろうが仕方がない。

 最奥の部屋にこいつを配置して……と。

 俺は冒険者に視線を移す。

 どうやら入口付近に設置したトゲの床に苦戦しているようだ。


「くっ、早速こんなトラップを仕掛けているなんて……ここのダンジョンは並大抵ではないようだ」


 トゲを一本一本壊しながら先に進む冒険者。

 何も考えずに配置してみたが結構、時間がかかっているようで安心した。

 しかし、いずれはトゲを全て壊され先に進まれてしまう。

 追っ払えばいいのか、それとも殺してしまうしかないのか……俺としては前者を選びたい。

 夢の中でも人を殺すのは御免だ。

 そう考えているうちに冒険者はトゲの床を超え先に進み始めた。

 俺に残っているのは天井から落下する鉄のトゲだけ。

 スライムを最奥に設置しているとは言え、やはり心許ない。

 この落下トゲを最も狭い通路の天井に設置する。


「構造自体は単純だな。まだ低レベルダンジョンだが……俺、1人でどこまで潜れるか。兎に角、後続のために情報を少しでも多く持って帰らねば金にならん」


 冒険者は1人で心細いのだろうか? 

 独り言が多い。

 ま、後で大事になりそうな情報を話してくれているだけ俺にとっては助かる。

 

「む? ここは狭いな。このような通路に仕掛けるトラップは数多い。用心して進まねば……」


 冒険者の歩幅からすると、あと2~3歩といったところか。

 俺が設置した落下トゲに気付く様子はない。

 用心しながら進んではいるが天井を見る様子はない。

 あと1歩……あ、ああ……下がれ下がれ下がれって!


 グシャ


 ……殺ってしまった。

 ものの見事に落下トゲが冒険者の脳天に直撃。

 頭部は原型を留めていないほど損壊している。

 冒険者は言葉を残す暇もなく逝ってしまった。


「冒険者を撃退しました。消化しLPに変換しますか?」


 えっ、消化って……?

 放っておいたらどうなるのだろう?


「放置したらどうなる?」


「ゾンビかスケルトンとしてダンジョンの駒となります」


 ふむ、消化してLPに変えるか放置して魔物として使役するか選択できるのは良いけれど……アシストに聞くべきことがある。


「LPとは?」


「ライフポイントの略名で命の数です。LPが0になるとダンジョンは消滅し無に帰します」


 なるほど、いわゆる残機数というやつだな。

 0になると俺は死ぬと……残機数が1しかないのは不安だな。


「それじゃ、LPに変換してくれ」


「了解。侵入者の消化を開始します」


 冒険者の遺体が徐々に溶け土へと戻っていく。

 本当に徐々にだから時間はかかりそうだ。

 今回はLPに変換しておいて正解だったかもしれない。

 そう言えば、夢から一向に目が覚める様子はない。

 夢の中だから時間は関係ないとか……そんなわけないよな?


 

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