第3話 熟練冒険者
聖職者の女性がダンジョン入口に設置したトゲを触りながら何やらブツブツと呟いている。
「ふむ、鉄の精度は合格かな。強度は……意外と脆いね。駄目だよ。こんなの熟練冒険者が来たら一瞬で……」
そう言うと杖を大きく振り奇妙な術を発動させた。
次の瞬間、設置したはずのトゲの床は消滅してしまった。
……こいつ、自分こそが熟練冒険者ってことを教えてくれたのか?
てか、このままじゃヤバい。
俺は急いで他の場所にも罠を設置する。
と言ってもトゲの床と落下トゲ・振り子鉄球しかないのだが……。
「おっと……きゃはは! 危ない危ない。しかし、単調な道が続くねぇ。怠けていたら駄目だよ。ダンジョンはアタシ達冒険者を楽しませなくちゃ♪」
一体、何なんだコイツ!?
俺の設置した罠を尽く不思議な術で消して行く。
壁に固定した振り子鉄球も聖職者に確実に当たるところで発動したはいいが同様の術で消されてしまった。
そして、いとも簡単に最奥前の扉に到着されてしまった。
「え? もう終わり? ま、生まれたばかりなら当然か……」
扉を開けられるとボス部屋に設置したワーグが聖職者に襲いかかる。
「ガァァァ!」
「へぇ、魔獣をしっかりと配置できてるじゃん。新ダンジョンとしては一応合格かな?」
熟練冒険者と自分で言うだけあって冷静だな。
ワーグ相手にも臆すること無く戦闘準備に入る。
「さ、早いとこ済ましてアンタと話したいのよね。見てるんでしょ?」
そう言うと何も無い空間を見上げる聖職者。
コイツ、もしかして俺を見ているのか?
「ガァァァ!」
「聖なる光よ相手を貫け! ホーリーニードル!」
グシャ
魔法で一撃、俺の作り出したワーグの脳天を貫き息の根を止めてしまった。
コイツ、強すぎるぞ?
今の俺が手も足も出せない……ま、手も足もないんですけど!
カチッ
「最奥に設置したボスを撃破されました。宝箱のロックを解除します」
聞いたことのないアシストの声がする。
そうか、俺は敗れたんだ。
しかし、LPは2あるし1減っても残機はまだある。
聖職者は宝箱を開けるとその中には以前倒した冒険者の防具が入っていた。
遺体が身につけていたものもいつの間にか消えていたけど、こんなところに移動していたのか。
「うーん、予想通りしょぼいね」
「やかましいわ! さっさと持って帰ってくれ!」
俺はつい聖職者に向かって怒鳴りつけてしまった。
「お―――聞こえた。アタシの声も聞こえてるよね―――!? ちょっとお話しようよ」
え?
俺の声が聞こえたのか?
もう一度、俺は聖職者に向かって話しかける。
「俺の声が聞こえるのか?」
「うんうん、聞こえる。聞こえるよ―――。へぇ、思ったより若い男性の声。君、前世は人間でしたでしょ?」
聖職者のその言葉に俺はどうしても認めたくないことを認めるしかないようだ。
「やっぱり……俺は死んだのか?」
「そう、今の君はダンジョン。この世界、グランケリオスの極東にあるベリア諸島の1ダンジョンとしてね」
グランケリオス。
それが俺が転生してきた世界の名のようだ。
しかし、人が来ないのも納得の極東でしかも諸島だって?
つまり、俺はいくつもある島の1つにダンジョンとしてここにいるわけだ。
「どうして、俺はこんなところに……」
「うーん? それは知らないけど人があまり来ないダンジョンになっちゃったのは運が悪いよね。でも、安心して♪ アタシが色々と教えてあげるから!」
「そうだ、どうしてそんなに詳しい? それにどうして俺と話ができると分かっていた?」
俺は今まで疑問に思っていたことを率直にぶつけてみた。
「うんうん、分からないこと多いよね。アタシも前世がダンジョンだったから分かるんだぁ。あ、その前は人間だったよ♪」
前世がダンジョン!?
何とも変な会話だが色々と詳しそうなのは理解できた。
「俺は何をすれば良い?」
「君の最終目標は最難関のダンジョン魔王城に育つこと。そのためにも魔王候補から作らないとね♪」
へっ……ま、おう……じょう!?
ええええええ!
俺は聖職者の言葉に驚きを隠せず、ただただ慌てふためくのみであった。
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