第4話春じゃなくても、出会いの季節 3

 「運命ですね!」


 放課後、一樹と柑奈と連れ立って軽音部の部室である空き教室に顔を出すと、銀次は出会い頭にそう宣言された。


 思わず、部室の入り口で立ち尽くしてしまう。

 それに訝しげな視線を向けた後、視線を部室内に向け、こちらを振り返って一樹と柑奈が呆れ気味な視線を向け返してきた。


 銀次の表情と、部室にいる見慣れない人物の、満面の笑顔と先ほどのセリフからなんとなく二人とも予測がついたのだろう。


 「…とりあえず、部室の入り口に立ち尽くされたら邪魔だから。中入ろうね、銀次」


 柑奈が呆れた表情のままそう言い、銀次の背中を軽くこづく。

 それに少しバランスを崩し、前につんのめりそうになるが、踏みとどまり、ため息をつきながら、銀次たちは部室に歩み行った。


 「…言ってる通り、マジで運命じゃない?」

 「同感だわ」


 一樹と柑奈にそう言われ、ちょっと素で泣きそうなった。


 「夕と、銀次君、知り合い? 夕、他県から最近引っ越してきたんじゃなかったっけ?」

 「知り合いというか、運命の相手ですね」

 「?、 どういうこと? …まあ、いいや、とりあえずみんな新入部員です!」


 銀次は目の前の光景にマジで泣きそうになった。


 何故ならば、今朝の嫌な予感がした通りだったからだ。

 今、銀次の目の前には、二人の女性がいる。

 一人は、銀次の憧れの人であり、片思いの相手、この四海館高校軽音部副部長、有村響子(アリムラキョウコ)先輩。

 そして、もう一人は響子先輩が今まさに紹介しようとしている女の子で。

 そこには、今朝の嫌な予感の通り、先日、初対面で銀次にいきなり愛の告白をしてきた顔は好みだけど、ぶっ飛んだ女の子いて、満面の笑顔を向けて立っているからだ。

 

 なんで、嫌な予感に限って当たるんですか、神様…。

 信心深くないのに、思わず銀次はそう思い頭を抱えてしまいそうになるが、二人はそんな銀次の気も知らないで会話を続ける。

 今年、厄年だっけ…?


 「今日付けで転校してきたクラスメイトで、私と同じようにロック好きなので我が軽音部に入部してくれることになりました!」

 「森川夕(モリカワユウ)です。よろしくお願いします!」


 好きな人に、自分にいきなり告白してきた女性を紹介されてしまった…。

 何この展開…。


 「とりあえず、他人の不幸は蜜の味」

 「うん、とりあえず一樹黙んなさい」


 一樹と柑奈の言葉のやりとりが、どこか遠くの場所のような気がする。

 少し、立ちくらみがしそうな気がして、銀次は軽く頭を抱えた。


 どうしてこうなった。


 とりあえず、銀次と夕のセカンドコンタクトは、こんな感じで始まった。

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