第3話 春じゃなくても、出会いの季節 2

 上級生に美人が転校してきた。


 そんな噂話が、銀次の耳に飛び込んでくるまで半日もかからなかった。


 時期ハズレの転校生、さらにルックスがいい。


 暇人が珍しくない高校生にとっては格好の暇つぶしのネタである。


 早速、悪友の一樹は廊下からその転校生のご尊顔を拝もうと、足早に教室を昼休みになったとたん飛び出したが、銀次は始業前に見た誰かさんのことが頭にチラついて仕方なく、一人寂しく、母親が作ってくれたお弁当を自席で食していた。


 嫌な予感がしてたまらない。


 そんな感じでノロノロとお弁当を食べていたら、帰りがけに学食の購買で買ってきたのか菓子パンとパックジュースを持った一樹が帰ってきた。

 空いていた前の席に銀次に向き合うように座る。

 その表情は満面の笑み。何故か、余計に嫌な予感がした。


 「本当に美人だったぞ、転校生。有村先輩のクラスだった」


 「へえ…」


 とりあえず、今はそうとしか言えない。


 「なんでもロックバンド好きな人みたいで、有村先輩とそれで話が盛り上がって、一緒に飯食ってた。有村先輩がそばにいたから、先輩づてに話したんだけど、軽音部に短い間だけど、入るってさ」


 いやー、目の保養が増えるわー。


 そんなことを言いながら、一樹はストローを使ってパックジュースを、ズズズっと飲んでいる。

 そんな一樹を見ながら、銀次は頭を抱えたくなった。


 だって、初対面の場所がロックバンドのライブ会場である。十中八九、ロックバンド好きだろう。

 なんというか、自分の包囲網が敷かれている気がしてならない。


 どうか、杞憂であってくれ。


 銀次はそう願いながら、昼食を続けた。


 そして、放課後、銀次の心配は嫌な予感通り、杞憂では済まなかった…。

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