第2話 春じゃなくても、出会いの季節 1

「で、そのままお持ち帰り? そして、銀ちゃんは童貞を遂に捨て去ることになったとさ、ちゃんちゃん?」


「そんな展開になってるわけないだろ…。とりあえず、SNSアカウント、相互フォローさせられたけど、こっそりブロックして別れたよ」

 

 学校の始業前のざわついた教室の一角。

 四海館高校、2年D組。その窓際の一番後ろの席。

 

 たまたま席替えのくじ引きで、運よくその席を現状ゲットしてる銀次は、机に頬杖をつきながら、前の席の机に座るクラスメイトの級友の女子、香月柑奈(コウヅキカンナ)に呆れながらそう言った。

 

 「もったいねぇ。いきなり告白してきてぶっ飛んでるけど、正直顔が好みだったんだろ? 付き合っちゃえばいいのに。 ん、もしかして顔はいいけど絶壁か?」

 

 そんな銀次に、隣の席に座りスマホをいじりながら会話に参加している男子の悪友、赤坂一樹(アカサカカズキ)が声をかける。

 

 銀次は軽くため息を吐きながら、呆れた視線を一樹に向ける。

 そんな銀次の視線など意に介さず、一心不乱に何やらスマホをタップしている。どうやら、メッセージアプリで誰かとメッセージのやり取りをしているようだ。

 先ほどの発言に、女子である柑奈が侮蔑の目を向けているが、気にも留めない様子で、スマホの画面を見つめている。


 だめだ、こいつ。


 柑奈がそう言いながら、視線を銀次に向け直した。会話を続ける気らしい。


 「一樹の性的嗜好は置いといて。でも、言ってることには一理あるよ。顔好みなんだったら、とりあえずお友達からでもいいじゃん。なんで、ブロックしてせっかくの出会いをシャットアウトするかな」

 

 「いや、俺、好きな人いるし」


 「…かわいそうだけど、同じ女子として言うけど、銀次、脈ないよ」


  あんた、ただの可愛い後輩君。


 そう言って、柑奈は仰々しく両手を上げ、演技っぽく首を振った。


 「わかってるよ。だから、頑張る気なんだろ、これから…」


 柑奈に恨めしげな視線を向けながら、そう言葉をこぼす。


 そう、銀次には好きな人がいる。その人は、銀次と柑奈と一樹が所属してる部活動ー軽音部の先輩。有村響子(アリムラキョウコ)先輩。


 銀次の一方通行の想いで、現状、柑菜の言うように脈は全然感じられないのだが、銀次は一年生の頃から、有村響子先輩に恋をしている。

 なので、他の女の子と、恋愛の類の関係になる気は、現在の銀次には全くない。


 呆れたような視線を柑奈に向けられるが、脈がなかろうが好きなものが好きなのは仕方がない。


 頬杖しながら、柑奈に向けていた視線を、窓の外ー校庭のグラウンドに向ける。


 そして、その瞬間、ゆっくりと校庭を歩む、一人の女生徒に目が入った。


 まさか。思わず、銀次はそう思った。


 初対面の印象でぶっ飛んでいるイメージだが、あんな顔が好みの女生徒など見かけたことがない。

 だから、SNSアカウントをブロックした今、それっきりの出会いのはずだったのだ。


 なのに、視線の先のグラウンドには遠目でも好みと感じるような、黒髪の女の子が。


 「見間違いであってくれ」


 銀次は祈るように、そう呟いた。


 

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