第20話 決闘
学院というものは四六時中勉強をするところかと思っていただが、そうではないようだ。
皇女だからという理由でもなく、単純に自由に講義を受けるか否かを決めることができるのだそうだ。
そういう意味ではミスティーは必要と考える講義だけを取っている。
護衛役ということもあり、当然ながらミスティーと同席して講義を聞く羽目になっているのだが、偶然にも彼女の取っている講義の大半が魔法系なだけにそこまで退屈することなく時間が過ぎていった。
「なあ、そういえばバランはどこ言ったんだ?気づいたらいなくなってんだけど」
すっかり講義に夢中になっていて、あの大きな男がいなくなっていることすら気が付かなかった。
「バランなら、おそらく修練場にいるわ。ちょうど区切りもいいところだし、私たちもそこへ行こうかしら」
学院の広大な敷地を歩き外へ出る。
てっきり学院の修練場なのかと思っていたのだが、ミスティーの後をついていくと向かったのは、帝国で一番の大きさを誇っている城だ。
石垣のような壁に囲まれた広大な敷地の中にその巨大な城が建っており、造りが独特な外観をしている。
「ここは……?」
「アカギ城よ。帝国を創った初代皇帝が建てたと言われているの。まあ、私の家でもあるわ」
これを自分の家と言えるそのインパクトが凄まじい。
この城の領内の一角に修練場はあった。
屋外に設置されただだっ広い修練場には、多くの者たちが各々修練に励んでいた。
その全員が、手に木剣を持っている。
その中でもやはり目立つ大柄な体格のバランも、手には同じような木剣を持っていた。
こちらに気がついたバランが、修練を中断し、駆け寄ってきた。
それに合わせて、他の者たちも一斉にこちらに走ってくる。
皇女であるミスティーを前にして、ズレ一つない完璧な整列をしてみせた。
「そんな堅苦しい雰囲気は私の前では必要ないわ。修練ご苦労様、私のことは気にせず再開しなさい」
俺はこっそりバランの元へ寄り、疑問をぶつけた。
「おいバラン、この集団はいったいなんなんだ?」
「おうアルク。こいつらは皆新米の兵士たちだ。その指導役として俺が任されている」
「指導役って……お前はミスティーの護衛なんじゃねぇのか?」
「当然姫の護衛を降りたわけではないが、第一、お前がいるだろうアルク。それならばこの俺がいなくとも姫の身の安全は心配いるまい」
まだ俺と出会って数日だというのになんたる信用か。
「ふふっ、バランに早速信頼されているなんて凄いことよアルク。もちろん、私もあなたには既に全幅の信頼を寄せているつもりよ」
話を聞いていたらしいミスティーが加えてそう言ってきた。
信用してくれるのは悪いことではないが、そう易々と信頼をおけるものなのだろうか。
「たった数日でもお前の人柄は十分にわかった。それに加えて、俺ですら見えぬお前の力の底の深さを考えれば、姫の護衛に適任というものだ」
もはやベタ褒めしてくるバランに、俺は恥ずかしさでここから逃げ出したい気持ちになった。
すると、この様子を見ていた新米の兵士の一人がこちらへ近づいてきた。
「教官、……その者はあなたよりも強いのですか?」
「それは分からない。事実俺はこの男と戦ったことはないからな。アルクは剣ではなく魔法を使う。優劣をつけるのも難しいというものだ」
「そうですか、魔法使い……ということですね?」
今度の問いはバランではなく俺に向けられたもの。
「そうだ」
彼の俺を見る目は、これまでも何度か見たことがあった。
そう、勇者パーティに喧嘩を売ってきた数人の冒険者パーティの中の一人でこんなのがいた。
話を聞くにその男はミーファのファンらしく、おっとりとした性格の彼女のことが好きで恋をしていると言った。
そんなことに俺たちは口を突っ込むつもりはなかったのだが、突然ヘルトに向かって決闘を申し出たのだ。
『勇者ヘルトという完璧超人がいるから俺の恋が叶うことは絶対にない』と言い、ヘルトに勝ったらミーファを貰うと言い出した。
本人の意思はどうしたと突っ込みたくなったが、当のミーファは全く興味がないような様子だった。
そしてなぜかその決闘に同意したヘルトは、公平を極めるために聖剣を使わずに素手で戦うと言い出した。
理解ができないバカ同士の戦い、両者武器を持たずの格闘戦。
当然ヘルトが男をボコボコに負かして終わった。
───
───
結局、この男も同じような目で俺を睨んでくる。
バランのことを慕っているのか尊敬しているのか、そのバランが俺より下であるかもしれないことが許せないといった理由で俺に対抗心を燃やしている。
「──ぜひ、私と模擬戦をしていただけないだろうか」
つまりはこの流れになるのだ。
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