第17話 護衛
着慣れない制服に腕を通して、鏡で身だしなみを整えると、部屋を出た。
部屋の外には、俺と同じく制服を着たバランが立っていた。
「着心地はどうだ?」
「どうも何も、普段着慣れてないからな。なんか変な感じだ」
「似合ってなくもないな。このような制服を着た経験はないのか」
「んぁ?まあ……俺は学校とか、そういう所は行ったことねぇんだよ。平民が入れるような所じゃねぇだろ、そういうのって」
まともに教育を学べる家庭なんざ、それこそ貴族どものように有り余る金を持っているような奴らだけだ。
俺は子どもの頃から冒険者として稼いでいくことしかできなかった。
そうしないと飢え死にするだけだからだ。
「その通りだ。姫が通われる学院に平民のような低俗な者はおらん。たかだか護衛といえど、作法と礼儀を怠ってはならない」
「そう言ってもな……俺はそういうことは分からないぞ?」
「それならば一言も発するな。黙って姫の後ろを歩くだけでいい」
この男がさっきから皇女のことを姫と呼んでいることがいちいち気になってしまう。
「──失礼、ミスティア様のご支度が整いました」
メイド服を着た女がバランにそう告げた。
「分かった」
バランがそれを聞き、奥の部屋へと進んで行った。
とりあえず、俺もその後ろをついて行くことにした。
メイド服の女の横を通り過ぎる瞬間、鋭い視線を向けられたのが分かった。
部外者である俺に対する敵意のようなものを感じた。
バランが扉を数回ノックし、その数秒後に扉の奥から了承を得る声が聞こえた。
扉が開かれた先には、黄金色の髪色をした少女が立っていた。
最初に見た赤く染まった真紅のドレスとは裏腹に、俺たちの着ている制服と変わらない──女子はスカート──姿に、どことなく皇女とは思えない至って普通の学院生といった風だ。
腰まで伸びていた長い髪の毛は纏められており、俺には一切わからない複雑な方法で結われている。
おそらくはあのメイド服の女がやったのだろう。
「あらっ、制服姿も案外似合ってるじゃないアルク。どこにでもいそうな学生そのものよ」
俺の制服姿を見て、微笑を浮かべながら褒めているのか貶しているのか分からない絶妙なラインで感想を述べてきた。
「そういうミスティーはむしろ制服姿の方が年相応な格好で可愛いけどな」
ドレス姿では大人びたような雰囲気を出すとともに、少々大胆にあいた胸元のせいか色っぽさもあったが、制服ではそのような露出はなく、どちらかと言うと小さい二つのソレは服越しではあるのかも分からない程度だ。
「………そうですか」
返ってきたのはたったそれだけの言葉だった。
ミスティーの後ろで俺が彼女の左側、バランが右側に位置ついている。
学院内の大きな通路を俺とミスティーとバランが歩いていると、同じ制服を身にまとった大勢の生徒がこちらをジロジロと見てきている。
周囲を観察してみると、ところどころで同じように護衛をつけて歩いている生徒が見受けられるため、それに関しては注目を集める原因ではない。
「みんなしてアルクのことを見ているわね」
「……やっぱ俺なんか可笑しいのか?」
もしくは突然知らない男が皇女の護衛に加わって「誰だこいつ」的な目で見られているのか。
「ただでさえ皇女という立場上私は目立つのだけど、バランはこの学院で有名なのよ。そんなバランの横にもう一人新しい護衛が入ったと、みんな興味顔であなたを見ているのよ」
敵意でも何でもない、ただの興味からくる視線ほど慣れないものもない。
「ていうか……バランお前、何して有名になったんだよ」
「別になりたくてなったわけでもなければ、自覚を持っているわけでもない」
「私に刃向かおうとした愚かな貴族の顔面を一発殴ったのよね、バラン?」
「……当然のことをしたまでです」
事もなさげに無表情でそう言ったバラン。
「だからね、アルク。あなたが私の護衛である以上、あなたはただ堂々とこの私の後ろを歩くだけでいいの。あなたがどう思われていようと、私があなたを評価して後ろを歩かせているのだから」
それ以上でも以下でもなく、ただそうあるからと主張する彼女。
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