第14話 皇女
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真紅のドレスに身を包み、自らの黄金に輝く長髪がよく際立っている。
歳は幾分幼く、それでいて立ち姿は畏れ多い女帝の如く、覇気すら放っている。
少女の目の前には一人の男が跪いている。
身の丈以上の大剣を背に携えており、その肉体は常人を超えた巨躯の姿をしている。
「………あのバルサドルが魔法道具を大量に仕入れているみたいだけど、いったい何を企んでいるのかしら………、あなたは何も知らないの、バラン?よく彼と会っているわよね」
少女の鋭い視線が、目の前で跪く、自らの二回り以上ある巨体の男を射抜く。
「やつが今の帝国に何らかの不満を持ち合わせていることは確実でしょう。ですが、あの男はあまり賢くはありません。何を企もうとも、姫の魔法を掻い潜ることはないでしょう」
「そう………」
窓の外を眺めて、一点に焦点を当てる少女。
しかしその目の向く方向は折れ曲がり折れ曲がり、あらゆるものを可視化していく。
「バルサドル………お父様のお気に入りだったのだけど、残念だわ」
ここではない、はるか先へ向けて、ポツリと呟いた。
「……向かわれますか」
「………………」
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部屋の壁が突然爆発し、続けて轟音が鳴り響いた。
外の光が部屋のなかを照らしていき、粉々となった天井がパラパラと上から降ってくる。
そして見えてくる二人の人物影は、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。
「見つけた、バルサドル……」
少女とガタイのいい男という異質の組み合わせの二人だが、少女の方はバルサドルに向けて鋭い視線を送っている。
「なっ………なんでここに………!?」
少女の姿を見て、目を疑う表情をしているバルサドル。
「お前の行いは全て私が見ていたわよ、バルサドル。当然、お父様にも報告するけれど……その前に、これはどういう状況なのかしら?」
ガイヤと、そして俺へ視線を向けた後、バルサドルを恐ろしく鋭い目つきで睨みつけた。
10にも満たない幼い少女が中年の帝国貴族を名乗る男を睨みつけるこの状況が不思議でしょうがない。
「こっ、これはその………そう、帝国をより良くするために会議を開いていたのです」
「そう……帝国を良くするための会議………、それにしては帝国に関係のなさそうなお方々がいるようなのだけど、本当に有意義な会議ができているのかしら?」
醜悪な笑みを浮かべて、視線の先に見据える数十年歳上の男に対して見下すような目を向ける少女。
「…………」
途端に俺へと視線を移した少女。
一切背けることなく、まさしくガン見だ。
当然ながら俺よりも年下だと思われる少女だが、外観からは考えられないほどの凍てつくような目つきと泰然とした態度からは、決して逆らえないと錯覚させられるように感じる。
何かを探るような視線と、全身を舐め回すような表情を浮かべた後に、微笑を浮かべて再び視線をバルサドルへと向けた。
「バルサドル……?あなたがお父様から気に入られていたことに自覚はあったのかしら?」
「……も、もちろんです。皇帝陛下からのご期待に添えられるようこれまで全力を尽くしてきました」
「そう……お父様の利益になるようなことは、果たせているのかしら……?」
「そ、それは………私なりに最善を尽くしているつもりではありますが……っ、いまだ成し遂げられたことはありません」
歯を食いしばり、悔しそうな表情でそう言ったバルサドル。
苦渋の表情を見せるバルサドルに対して、少女の方は何一つ表情を変えてはいない。
ただただ冷めた目でバルサドルの方へ目を向けているだけ。
「あなたがこれまで帝国に対して変革を求めてきていたのは、この私でさえも知っているの。だからあなたの事はずっと見ていたのよ?ここまで言って、他に何か、私に言うことはないかしら?」
これまでバルサドルに対して問いかけだけを繰り返していた少女の、最後とも言える問いかけを投げかけた。
「…………何も、言うことはありません」
少女の目は見ずに、下を向いたままそう答えたバルサドル。
しかし覚悟はできているような表情を見せていた。
「バラン、彼を連れて行って」
「分かりました」
少女に指示されて、巨躯の男がバルサドルの身柄を取り押さえた。
「さてと………あなたの事なのだけど」
俺の方へ向き直り、一つ考えた素振りを見せた後に、再び笑みを見せた。
「あなたに一つ、提案があるのだけど、乗る気はないかしら?」
バルサドルへ向けたものとは異なり、俺のことを見下すような視線ではなく、どちらかと言うと興味を示したこどものような表情をしていた。
「──バラン、あの女も一緒に連れていきなさい」
床に倒れた状態で起き上がる素振りのないガイヤ──崩壊の衝撃で瓦礫が頭部を直撃した──を指さして、巨躯の男に向かってそう言った。
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