第12話 疑心
魔法具の発達は、魔法文明における大きな革新といえる。
魔法を扱うことができない人でも魔法を自在に使うことができればどうだろうか。
時間を要することなく即座に魔法を放つことができればどうだろうか。
計り知れないメリットがある。
「──しかしこの国の皇帝は決して帝国の技術を世に広めようとはしない。広めることを恐れているのだ。今こそ、帝国を変えるべきだと私は考えている」
自らの考えを熱く語るバルサドル・エリュミエラという男。
帝国の魔法具技術をこの国内だけにとどめるのではなく世界中に広めたいと言うが、どうにもその考えの根底が見えない。
王国はもとより、他の国にしても帝国と関わりのある国など聞いたことがない。
どこに対しても牙をむけて威嚇しているような、そんな印象だ。
「ただ技術を広めたいというだけではないんだろう?本当の目的は何だ?」
そう問いただすと、バルサドルはニヤリと口角を上げて答えた。
「……私は、帝国を元に戻したいのだ。古くから大陸を制圧してきた帝国が、今や鎖国をして孤立しているだけだ。圧倒的な武力と技術を誇る帝国を蘇らせたいのだ!」
「それはつまり──魔法具の技術を世に広めたいというのは、その力をもって他国、あるいは王国を制圧する、ということですか」
「そう、その通りだ」
これまでの話を聞いていたマーシャがバルサドルの言いたいことを言い当てた。
「そんな中で突然君の噂が聞こえてきてね」
再び俺の方を見てそう言った。
「国王直々に勇者パーティを除名され、王国を追放された魔法使いのアルク──君の力を借りられると思ったんだよ」
この男は、王国を追放された俺が王国に対して負の感情を抱いていると思っているのだろう。
「国を変えるには、それに見合うほどの力が必要なのだ。そのためにはまず、君臨する皇帝を殺し、皇族一派を消滅させる。そこに辿り着くためには皇帝に仕える強者共を倒さなければいけない。そこで君の出番というわけなのだよ」
帝国を生まれ変わらせるために皇帝とその家族を殺し、バルサドル自らがその座に新しく就くという。
話を聞く限りでは無謀の一言なのだが、この男からは妙な余裕を感じてくる。
馬鹿にも見えないが、王国でもいたようなただひたすらに貪欲な貴族という感じだ。
この男が成そうとしていることは完全に国家反逆罪、即刻死刑、もしくはその場で殺される。
しかし皇族一派を皆殺しにしてしまえば、裁きを決断する皇帝なくして帝国は機能しなくなる。
国家の崩壊が始まるだろう。
「今すぐに決断するというのは無理であろう。少々、私と二人きりでお茶でもしないか?」
場所を移され、豪華な客室へとやってきた。
依然として手錠は嵌めたまま。
「ほ、本当に護衛を外してよろしいのですか……?」
「良いと言っているだろう。早く下がれ」
護衛を一人もつけずに、本当に俺と二人だけの空間になった。
大きなテーブルを挟んで両橋のソファに俺とバルサドルが腰を下ろす。
テーブルには二つのティーカップに入ったお茶が用意されている。
「さて………君がこの話に対して不可能だと思っていることは重々承知のことだ。だが、私が声をかけたのは君だけではないんだ」
「もう一人いるのか?」
「あぁ、君のことをよく知る人物だと聞いているよ。実のところ、君を引き入れることを提案したのも彼女だ」
女なのか……?
「入ってくれ」
バルサドルがそう叫んだ途端、勢いよく部屋の扉が開かれ一人の女が入ってきた。
俺の方を直視しながら、そのままこちらに直行、そして俺の隣に座った。
いまいちこの状況を理解できない。
……誰だこの女の人
俺のことを知っているというが、俺はこんな女の人を全く知らない。
すごい綺麗な女の人だし、こんな人に会ったら絶対忘れないだろうけど、どれだけ記憶から引っ張り出そうにもこの人の顔が浮かんでこない。
あとソファでの距離がすごい近い。
数センチで互いの足が触れるほどの距離に座ってくるなり長い足を振り上げて組み出した。
「君と彼女は師弟関係にあると聞いている。君たち二人がいればとても心強い戦力となる」
「……師弟………関、係…………?」
いったいどっちが師匠で弟子なんだ………
横に座る彼女に視線を向けると、同じくしてこちらへ視線を向けていた。
「あっ………えっと、名前……………なんだっけ」
恐る恐る聞いてみると、あからさまに不愉快といった表情で睨んできた。
なんというか、逆らえない年上感のようなものをこの人から感じる。
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