第11話 帝国
……なんて思っていたのだが、早々にまた足を止める羽目になってしまった。
「先輩……もしかしてたくさん敵を作るタイプの人ですかぁ?」
「いや、どちらかと言うと平和主義なんだけど」
それでもこの状況を見ると平和主義と公言していいものかと考えてしまう。
俺たちを全方向から囲んでいる、およそ10人ほどの武装した男たち。
「我が主人が貴様をお呼びだ。大人しく着いて来てもらいたい」
「へぇ……お前の主人は俺のことを知っているってことだよな?それならお前も俺のことを知らねぇわけないよな?」
「当然知っている。だが貴様への対策を何一つせずにこうしてここにいるとでも思ったか?元勇者パーティの魔法使いアルク」
鞘から剣を引き抜き、こちらに向けて剣先を差し出す男。
俺に対する策というのがどうも気がかりだ。
剣で斬りかかれば俺に勝てると思っているのか?
「ははっ………上等じゃねぇか」
堂々と俺に勝てると言い張られれば、尚のこと逃げるわけにはいかない。
「──ダメです先輩っ!」
感情が燃えているからか、全身から魔力がダダ漏れになっている俺の右手首を掴んだのはマーシャだった。
「今はおとなしく捕まりましょう」
「いや、けど……負けるような相手でもないぞ?」
「それでもです。私の言う通りにしてください、先輩」
そう言いながらマーシャはとある方向へ指をさした。
そこには、男たちに囲まれながら地面に倒れているリルの姿があった。
「ごしゅじん……気をつけろ。此奴ら、得体の知れない妖術を使うぞ……」
そう言ってぐったりとしたまま起きあがろうとしないでいる。
「……妖術などではありません。ただの魔法道具です。おそらくですが、魔力を消滅させるもののようです。魔法ごと魔力も消滅させるようで、あの女の撃った魔法がそっくり消えてしまっていました」
「じゃあリルが倒れているのは………魔力切れか」
リルはまだ魔獣の中でも幼体だから魔力の総量が少ないのだろう。
俺ならそうそう魔力が切れることはないだろうが、いくら魔法を撃っても無駄になるということか。
「そういうこと………分かった、大人しくしてやるよ」
「それでいい」
三人それぞれに手錠が嵌め込まれ、男が下に転移の魔法陣を展開した。
そして次の瞬間には目の前が真っ白に変わった。
そこは黒の鉄格子で囲まれた檻の中だった。
あたりを照らす光は薄暗い。
俺の横には同じようにして転移してきたマーシャとリルの姿もある。
いまだグッタリとした状態のリルに向けて魔力を供給してやろうとするも、手首に嵌められた手錠が魔力を吸い出した。
どうやらただの金属手錠というわけではないようだ。
「………」
奥の方から鳴り響く人の歩く音。
靴のかかと部分がコツっ…コツっ…と音を鳴らすようにして、だんだんとこちらへ近づいてくる。
「──その手錠は特殊な鉱物から作られているのだよ。魔力を注げばそれだけ硬度が増していく。いくら魔法の天才でも破ることのできない代物だ」
姿を見せたのは、豪奢な服装で身を包んだ男。
ぽっこりと出ている腹がよく目立っている、如何にも貴族であると主張しているような男だ。
「……初めて見る顔だな。誰だお前?」
俺を知っていると言うから、てっきり俺も知る人物なのかと思ったが、この男とはこれが初対面だ。
「貴様、口のきき方には気をつけろ」
側に立っている武装した男が俺に向かって怒気を含めて言い放った。
「よいよい、至極当然の反応だ。なにしろ縛られた状態で対面しているのだ、礼儀を示さねばいけないのはこちらの方だ」
温厚な表情でそう言った。
「檻の中に閉じ込めて錠を嵌めさせているのが礼儀と言うのか?」
「それに関しては申し訳ないと思っているのだがね。君たちを相手に何も縛らずに話をするのは少々危険と判断したまでのことだよ。どうか理解してもらいたい」
続けて男は自らの紹介をした。
「私の名前はバルサドル・エリュミエラ、帝国貴族の者だ」
「帝国の貴族だ……?なんでこんな所に帝国の人間がいるんだ」
大陸の端と端の位置関係にある王国と帝国とでは、辿り着くのに相当な時間を要する。
「それを言うならば、むしろ逆の方。ここの人間が君たちに対して放つ言葉だよ。──ようこそ、帝国の地へ」
俺たちに向かって、愉快とばかりに両手を広げてそう言った。
転移の魔法というのにも、限度がある。
魔力量、魔法陣展開のセンスがよほど異次元でもなければ、俺たちが帝国まで転移されることもない。
「君の疑問にお答えすると、君たちを転移させたのは人による魔法ではないからだよ」
そう言って取り出したのは、黒い石のようなもの。
「これは転移魔鉱石というものだ。名前の通り、この石一つで転移魔法を起動させることが可能となる。魔法も、魔力すらも必要としない。転移したい所に好きなだけ転移することができる」
初めて耳にするものだ。そんな夢のような石がこの世界に存在しているのか。
「王国の勇者パーティの噂は常々帝国内でもよく聞くことだ。しかし勇者パーティが帝国に訪れたことは一度もない」
「……そりゃ、王国と帝国が敵対関係にあるからな」
「その通り。帝国は外部の者を入れることを堅く禁じてきた。それゆえに、帝国の情報が漏れることも一切なかった。帝国が築き上げた魔法具の文明発達、この素晴らしさを外の人間は全く知らないのだ」
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