第2話 除名

「はぁ?!おいてめぇクソ国王。お前のバカみたいな一存のせいで魔王討伐への──」


「黙れ愚か者!私の決定は絶対だ。反抗するというのなら、国家反逆の罪で貴様の首を刎ねてやるぞ!」


 意にも介さず押し通そうとする国王。


 ここで何を言っても理不尽に返されるだけだ。


「勇者パーティ除名に加えて貴様をこの国から追放する。直ちに王国から出ていけ」


「クソッ……本当にでたらめだな」


 今すぐこの場からの即刻追放となり、女を引き摺り出した近衛兵が戻ってくると今度は俺をここから引き摺り出そうと近寄ってくる。


「待ちな、いくらなんでも無謀すぎるよ」


 俺の前に立ち塞がり、阻止しようとするレシル。


 ミーファも俺を連れて行かせないためか、腕を軽く掴んでいる。


「これは簡単に下せる決断じゃないよ、国王さん。魔王を討伐するっていうのにうちの主力を除名するって、それはないでしょ」


 怒気を込めた言葉に王国貴族どもが若干たじろぐ。


 国王はレシルを睨んで一言も発さない。


 このままではより悪い方向に傾くだけだ。


「レシル、お前らまで反発したらいよいよ壊滅だ。俺は大人しく従うよ。打ち首で死ぬのなんて、魔法使いにあってはならない最期だしな」


 少し笑い半分に言って場の空気を軽くしようとしたのだが、レシルの目は次第に潤んできてしまった。


 前々から泣き虫気質のレシルは、周りのやつにはバレないように強気に振る舞っていた。


 勇者パーティの中でも俺しか知らない、俺とレシルの二人の秘密だったのだが、ここでそれも無くなってしまった。


「おい、もう泣かないって約束しただろ?忘れたのかよ」


「だって……アルクがいなくなったら、私たち……」


「大丈夫だって。それに俺がいなくなってもお前がいるだろ?守りをしつつ攻撃するだけだ。器用なお前には簡単なことだろ」


 近衛兵が強硬手段にでる前に自らこの場を去った方がコイツら勇者パーティのためにもなるだろう。


 俺はこの場から離れるために、足を動かした。


「二人を頼んだぞ、ヘルト」


「………っ、アルク………!」


 その場から一歩も動くことのなかったヘルト。


 勇者としての責任感と戦っているのは分かっていた。


 別に俺を庇って欲しかったとも思っていない。


 親友に酷な選択をさせるつもりは毛頭ない。


 だからどうか二人を守ってやって欲しいと、そう思った。




 王宮を出た正門近くには、道端でうつ伏せになって倒れている女がいた。


 黒の薄着で下には何も身につけていない。布が少し捲れており、尻がほんの一部見えてしまっている。


 髪の毛はボサボサで汚らしいのだが、大胆に露出した肌はめっぽう綺麗で艶すらある。


 俺が今ここにいる事になった元凶たる人物だが、その場からピクリとも動く気配がない。


 まさか近衛兵が殺したのか……?


「……おい、大丈夫か?」


 憎むべき女だが、これが女なだけに目の前で見殺しにするのは俺の人道に反する。


 男ならいざ知らず、女なら誰であろうと手を差し伸べる。


「……っ!?」


 安否を確認するべく女の肩を揺すろうと手を伸ばしたとき、不意に女が俺の手首を掴んできた。


「アッ………アルク様…………?」


 突然手を掴まれたものだから心底驚いたが、女の顔から伺えるのは先ほどのような狂気に満ちたものではなく、いたって平常心を保てている表情だった。


「お、おぅ………大丈夫か」


 間近で見た女の顔はよく見るとそれなりに整った顔立ちだった。


 別に顔が可愛いければ全て良しとは思っていない。


 というか、さっきから女の掴む力が異常に強い。


 それとなく振り解こうと試みるも、女の手の指はビクともしない。


「おい……この手を、離して……ッ、くれよ……ッ!」


 片方の手で無理やり振り解こうとしても無理だ。


 明らかに筋力で俺よりも上回っている。


 いくら魔法使いだからとはいえ、筋力トレーニングを怠ってはいない。


 ただ少し、一般的に比較してしまうと力がない……ってだけで、さほどの差は……ッないはずだ。


「ハァ……ハァ………、無理だ……」


 そして先ほどからずっと返事がない女の顔を見てみると、瞬時に女と目が合った。


 見開き、俺を見たまま微動だにしていない。


 瞬きすらすることなく全身が硬直している。


 このままでは埒があかないため、やむを得ず実力行使に出るほかない。


 女の体を中心に魔法陣を展開すると、ふわりとその身体が宙へ浮き、俺の手首を掴んでいた手が開かれた。


「やっぱ死んでんのか」


 あらゆる物体を操る魔法によって女の前身体を見てみると、胸部にベッタリと血が染みていた。


 位置的に考えて心臓部をナイフのようなもので刺されたのだろう。


 それだというのに、さきほど意識を戻して俺の手首を掴んで離さずに死んだということか。


 ゆっくりと女の身体を降ろし、仰向けの状態で地面へ置いた。


 いくらなんでもこの女の死体を俺が処理する義理まではない。


 むしろ迷惑を被った側だからな。


 このまま置き去りにして、俺は王国の出口のある方向へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る