親友(勇者)には可愛い娘、俺(魔法使い)にはヤバい女しか寄ってこない

はるのはるか

第1話 乱入

「あはは……」


 離れたところから手を振ってきた人たちに対して、遠慮気味に振りかえす親友の姿を横目にみる。


「お前さぁ……あんだけ好意を寄せてる女の子がいるのに、よくもまぁ貞操を守っていられるよな」


「……何をいきなり下品なことを言うんだアルク。僕はただ、勇者であるという責任感を持っているだけさ。……そういう君こそ、相手はいるのか?勇者という肩書きで上げられている僕なんかよりも、アルクは人気者じゃないか」


 真面目な顔でそう言ったヘルト。煽り文のようにも聞こえるかもしれないが、バカ真面目なヘルトに至ってはこれが本心からの言葉だ。


「もうさ、憎たらしいとかを通り越して呆れてすらいるよ。俺にそのイケメンと謙虚な性格と、あとは勇者に選ばれてさえいたら人生180度違っていたんだろうな。俺だったら何一つ余すことなく使い尽くして人生謳歌するね」


「そこまで変わってしまうと、それはもうアルクじゃないんじゃないか?」


「……確かに」


 でもまあ本当、なんで神様はこんなやつに全てを与えてしまわれたのかね。


 これでは宝の持ち腐れも大概だ。


「ほらアルク、二人が待ってるよ。早く行こう」


「──あぁ」


 友の身でありながら一瞬だけ惚れてしまうその笑顔を女の子の前でしてみろ、もう取り返しのつかないことになるぞ。


 謙虚であるが故に、ヘルトは熱狂的なファンに対しても苦笑いと遠慮した手振りしかできない。


 それでも手を振られた民衆の歓声といったらもう……、罰ゲームかと思ったよ。


 勇者パーティの僧侶ミーファ、俺と同じく魔法使いで主に防御担当のレシルと合流し、四人揃って王宮へと歩みを進める。


「そういえば、さっきアルクが好きだっていう女の子見たよ。わざわざ私に言いに来たもんだから、驚いちゃった」


「えっ、うそっ!マジでマジで!?どこ、どこにいたのその娘!」


 端にいたレシルの元へ寄って情報を引き出すべく詰め寄った。


「あっ、えっと……なんだっけかな。多分もうそこにはいないと思うけど」


「それでもいい。どこで会ったんだよっ!」


 俺にとっての希望とも言える運命の女の子。このチャンスを見逃しはしない。


「私も会った、アルクを好きな女の子」


「えっ!うそっ?」


「うそ」


「うっ………え?」


 嘘なのかよ。


「あぁーあ、ミーファを怒らせちゃった。アルク最低」


「えぇ……」


「アルク、大事なのは自分を好いてくれる人の数じゃなくて、その人の心だよ。多ければいいというものでは無いよ」


 澄まし顔で思ったことだけを口にしている真面目勇者を前に、俺とレシルは思わず口をポカンとしていた。


 俺たちが王宮に呼び出された理由は全く聞かされていない。


 先日久しぶりの大仕事を終えて、一時的に帰還を命じられたから帰ってきたが、その理由すら教えてくれないとは、そんなに偉いもんなのか国王は。


 魔王討伐を目的として結成された勇者パーティは今や完全に王国の言いなりだ。


 アレをやれ、コレをやれと関係のない雑事を押し付けてきたかと思いきや、王国に迫る魔物のスタンピードを阻止しろと即刻帰還を命じてきたりと。


 それを気の優しいヘルトは全て笑顔で受け持ってしまう。


 勇者ではないただの魔法使いの俺に発言権など最初からないも同じだ。


 全ての権限は勇者であるヘルトにある。国王はヘルトの人の良さに漬け込んで散々言いたい放題だ。


 どうせ今日も大したことが理由ではない呼び出しなのだろう。


「今日こそは俺があのクソ国王に一発言ってやる」


「やめなってアルク……そんな事したらすぐにでも反逆罪で打ち首にされるよ。ついでに私たちも共犯とか言われて──スパンッだよ」


 首を手刀で横に一閃するかのようなジェスチャーをしてくるレシル。


「……ゴホンッ。──勇者御一行のお入りです」


 謁見に繋がる金属の門扉の前に立つ兵士が気まずそうに一回咳き込み、続けて声を張って言った。


 それと同時に目の前の扉がゆっくりと開かれ、国王の玉座へと導く赤い絨毯がしかいで伸びていく。


 左右双方には王国貴族と思われる者たちがズラーっと並んで立っている。


 所定の位置につき、四人全員が国王に向けて膝をおり、中腰の姿勢になる。


「勇者パーティの者どもよ、此度の活躍、誠に見事であった。ひいては──」


 国王が言葉を続けようとしたそのとき、王国貴族どもの方向から騒がしい声が聞こえてくる。


 それにより、国王は口を止め、そして俺たちも何事かと騒がしい方へ向く。


「ッッッッ……アルク様ァァァァ!!!!」


 突然一人の女が王国貴族の群衆から宙へ向かって飛び出した。


「っ……!?」


 とても貴族とは思えない格好、靴も履いていない、ボサボサの髪の毛の姿で、女の顔は狂気に満ちたような表情をしていた。


「なっ……なんだこの汚い女は!どこから紛れ込んできたのだっ!」


 国王が叫び、近衛兵が女を拘束する。


「アルク様ッ、アルク様ッ、アルク様ッ……!」


 ただひたすらに俺の名前を口ずさんで止めない奇怪な状態に、勇者パーティのメンツも含め誰もが俺の方を見た。


 俺もそうだ。


 黒い布一枚しか着ていない卑猥な格好の女が俺の名前を連呼しながら狂っているのだから、何事かと考える。


「その女を今すぐ引き引きずり出せ!」


「はっ……!」


 近衛兵が速やかにこの場から女を運び出し、再び静寂が訪れる。


 誰もが沈黙となり、そして俺と国王を交互に見比べる王国貴族ども。


 この沈黙を破ったのは国王だった。


「……魔法使いアルク、あの者に心当たりは?」


「あぇ?……えーっと、多分ないと思いますけどね……」


 これは紛れもない本心だ。あの顔に心当たりはない。


 だが、はこれまで嫌というほど見てきている。だから実のところ、実際の記憶と消したくて消した記憶に齟齬が生じている可能性はある。


「………………」


 国王が探るように俺の目を見てくる。


 しかしコイツの頭の悪さはすでに知っている。


 このクソ国王は一度たりとも論理的に物事を考えようとはしない。


 頭皮が剥げた太ったオッサンでも、その中についている脳はガキ以下だろう。


「魔法使いアルク、貴様を勇者パーティから除名する」


 その低脳な結論に大半の王国貴族が頷き、横に並んだヘルト、レシル、ミーファが驚きを隠せないでいる。


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