第11話 美斉津理香ぶべちょぶぶらちょ

◆美斉津視点◆


 隣の芝生が青く見える。

 これは、多くの人が経験したことがあるだろう。私もそうだ。

 他人のものがとても良いものに映る。他人のものを奪いたくなる。

 今までたくさん他人のものを強奪してきた。たとえばそう、彼氏とか。

 細呂木谷の彼氏もそうだ。三廻部とは、遊園地でダブルデートをするときに会った。二人が幸せそうにイチャイチャしているところを見て、ふと欲しくなった。


 だから彼氏と別れて、三廻部を色仕掛けで無理矢理落とした。

 細呂木谷は親友だ。でも、三廻部が悪いのよ。簡単に私の虜になっちゃったんだから……。

 三廻部と付き合って一週間ぐらいが経ったころ、ぶべちょぶぶらちょが現れた。

 三廻部とデートして帰ってくると、家にいたのだ。


「ぶぶぶぶべべべべぶぶぶべべべべぶべべべぶべべぶべべべべべぶぶ、ぶぶぶぶベベベベベベぶぶぶぶベベベベベベぶ」

「な、なにこのキモい生物……キモい鳴き声……」

「ぶべぶぶべぶべべべぶべべべべぶべぶべべ、ぶぶぶぶぶベベぶぶベベぶベベベベベベぶベベベベぶベベぶベベぶぶベベ、ぶぶぶぶぶベベぶベベぶ」

「でてけ、うざい」


 家から追い出した。でも、トイレやお風呂に入っているすきに、いつのまにか戻ってきた。

 何度も何度も追い出した。でも、気づいたら戻っていた。


「なんで戻ってきてんのよっ! 気持ち悪いわねっ! この、このっ!」


 ぶべちょぶぶらちょを蹴った。蹴って蹴って蹴りまくった。しかし、


「ぶべべべべべべべべべべべぶべぶべべべべぶべべべべべべべべべべべ! ぶぶぶベベベベベベベベベベぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!」


 ぶべちょぶぶらちょは喜んだように鳴く。

 どれだけ蹴っても、そんなかんじなのだ。

 ほんと、気持ち悪い……。


          *


 ぶべちょぶぶらちょが現れてから一週間後、仲間を見つけた。那谷屋海人という同じゼミの男だ。 

 不細工だし私をエロい目で見てくるし、正直あまり関わりたくない。だけど、せっかく同じ境遇の者を見つけたんだから、利用した方が得だろう。

 こき使ってやる……。


          *


 数日後、私は自分でもわかるくらいおかしくなってきた。

 -―ぶべべべべべぶぶぶべべぶべぶべべべべぶべべべぶぶべべべぶぶぶぶぶぶぶベベベベベベベベぶベベベベベベベベベベぶぶベベぶぶベベぶベベぶベベぶぶベベぶぶぶぶベベベベぶベベベベぶぶベベベベベベぶベベベベベベベベ-―

 外にいても、ぶべちょぶぶらちょの鳴き声がきこえるようになってきた。


 いや、これは幻聴だ。それはわかってる。でも、頭からあいつの鳴き声が離れない。

 う、うるさい……。

 あいつの鳴き声ばかり聴いてるから、こんな幻聴が聞こえてくるの?

 ――ぶべべべぶぶべべぶべベベぶぶぶベベぶベベぶぶぶぶぶぶベベベベベベぶぶベベぶぶベベぶベベベベぶベベベベぶベベぶぶベベベベベベぶベベベベベベベベベベぶベベベベぶベベベベぶぶベベベベベベベベベベベベ――

 うるさい!


         *


「そうなのぶべ」

「はあ?」


 喫茶店で那谷屋と話しているとき、語尾に変なのをつけてしまった。

 最近、ぶべちょぶぶらちょみたいなことをよく言ってしまう。

 私は、どうしたの?

 どうなっちゃうの?

 ――ぶべべべべぶぶべべべぶぶべべべべぶべぶぶベベぶベベぶベベぶぶベベベベベベぶぶぶぶベベベベぶベベぶぶぶぶベベぶベベぶぶベベベベぶぶぶベベベベベベぶベベベベベベベベぶベベぶぶ――

 ぶべちょぶぶらちょの鳴き声は相変わらず止まない。

 うるさい……。


 その日、家に帰ってくると、ぶべちょぶぶらちょがいなくなっていた。

 やった、ぶべ、やっとぶべ、いなくなっぶぶたっ!

 これぶぶでよぶるぐっすべべりねぶぶべべられぶぶべべるべべべべぶぶぶベベベベベベぶぶベベベベベベぶベベぶベベぶベベぶぶベベベベベベベベぶぶベベぶベベベベベベぶベベベベぶぶぶぶぶぶベベベベぶぶぶぶベベベベベベぶベベベベベベベベベベベベぶベベベベぶぶぶぶベベベベぶぶぶぶぶベベベベぶベベベベぶベベぶベベベベベベベベぶぶベベベベぶぶぶベベベベぶぶベベベベぶベベベベベベぶベベベベぶぶぶぶぶベベベベベベぶベベベベぶベベベベぶベベぶベベベベぶぶぶぶぶぶベベベベぶぶぶぶぶベベベベぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベベ


           *


 ぶぶべべべべぶべべべぶぶべべべべぶぶぶぶべべべべぶべべべぶぶべべべぶべべべべベベベベベベベベベベベベぶベベベベベベぶぶぶぶぶベベベベぶぶぶぶ

「ぶべべべぶぶべべべべぶべぶぶべべぶぶぶぶぶぶべべべべぶぶべべぶぶべべぶぶぶべべぶべぶぶぶぶベベぶベベぶぶぶぶぶぶぶベベベベぶベベベベぶぶぶぶぶベベベベベベベベぶ」

 ぶべべべぶぶべべぶぶぶべべべべぶぶぶべべべべぶぶぶぶぶぶべべぶべぶぶぶべべぶべぶぶぶぶベベぶベベベベベベベベぶぶベベベベベベベベぶぶぶぶぶぶベベベベぶベベベベぶベベベベぶベベぶベベベベぶ

「ぶぶぶぶぶぶぶべべべべぶべぶべべぶべぶべべぶべぶぶぶぶぶべべべべぶべべべべべぶぶべべべぶぶべべべべべべべべぶぶぶぶベベベベぶベベぶベベベベベベぶベベぶぶぶベベベベ」

 ぶぶぶぶベベぶぶぶベベベベぶぶぶぶベベベベぶベベベベベベベベベベベベぶベベベベベベぶベベぶベベぶベベベベベベベベぶベベベベベベぶベベぶベベベベベベベベベベぶぶベベベベぶベベぶベベベベぶベベベベ

「ぶベベぶぶベベベベベベベベベベベベぶぶぶぶぶベベぶぶベベベベベベベベベベぶぶぶぶぶベベベベベベベベベベベベぶぶぶぶぶベベベベぶぶぶぶぶぶぶベベベベベベベベぶぶぶぶぶぶぶぶぶベベベベベベベベぶベベベベぶベベベベぶぶぶぶぶベベベベぶぶぶぶベベベベベベ」

 ぶぶぶぶぶベベベベベベぶベベベベぶベベぶベベベベぶぶベベベベベベベベぶぶベベベベぶベベぶベベベベベベベベぶぶベベベベベベベベベベベベベベベベベベぶベベベベベベぶベベベベベベベベベベベベベベぶぶベベベベぶベベベベベベ

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