第8話 ぶべちょぶぶらちょになっていく

 ぶべちょぶぶらちょに対して、他にも試してみた。

 まず、懐中電灯の光をアイツの目に当ててみた。


「ぶべべぶべべべべべべべ! ぶぶぶぶベベベベベベぶぶベベ!」


 効き目なし。

 冷たいのはどうだろう?

 氷を大量に容れたバケツの中に、アイツを入れてみる。


「ぶべべぶぶぶぶべべべぶぶぶぶぶぶぶぶべべべべべべ! ぶぶぶベベベベぶベベベベベベぶベベぶベベベベ! ぶベベぶぶベベぶベベベベベベベベぶぶベベぶぶベベ!」


 これも効き目がなかった。

 くそっ、こいつをどうにかする方法はないのか……。


          *


「昨日試したが、ぶべちょぶぶらちょは光にも冷たいのにも強いようだ」


 次の日、また大学のキャンパス内にある喫茶店で、美斉津と二人で話し合う。


「ふーん、そうなのぶべ」


 語尾に変な言葉を付け足す美斉津。

 …………は?


「……ぶべ? ぶべってなんだよ、ぶべちょぶぶらちょじゃあるまいし……」

「え、わ、わたし、ぶべって言ってた?」

「ああ」


 頷くと、美斉津は顔面蒼白になった。彼女は震える手で、コーヒーを一口飲む。


「おい、大丈夫か?」

「え、ええ、大丈夫よ」


 と言うが、いまだに顔は青いし、手は震えたままだ。

 実はもう一つ話したいことがあった。こんな状態の彼女に言うのは少し気が引けたが、意を決して言う。


「なあ、昨日さ、帰りにおまえと三廻部がキスしてるとこみたんだ」

「…………それが、なに?」


 不機嫌な顔になる美斉津。


「三廻部は細呂木谷と付き合ってるはずだよな?」

「ええ」

「おまえ、それを知ってて、あんなことしたのか?」

「ええ」

「おまえたちは、浮気、してんのか?」


 美斉津は、ふぅ、とめんどくさそうにため息をついた後、


「そうよ」


 開きなおった顔で、堂々と言った。


「おまえ……細呂木谷と親友じゃないのかよ」

「そうよ」

「じゃあ、なんであいつの彼氏とあんなことしてるんだ!」

「だってほしくなっちゃったんだもん。しょうがないでしょ?」

「な、なんだと?」

「いいじゃない、べつに。三廻部くんも私のこと好きみたいだし」

「よくねぇよ! おまえ、細呂木谷がこれを知ったらどう思う?」

「さあ、知らないわよ。うっさいわね。お説教するつもりなら、もう帰るわ。じゃ」

「おい!」


 美斉津は大股で歩き、店を出ていった。

 ふざけたやつだ。

 今日はバイトがない。家に帰って7ちゃんでもして時間を潰すか。

 店を出て、帰り道を歩きながら考える。ぶべちょぶぶらちょのこと。あと、美斉津と三廻部の浮気のこと。

 正直、ぶべちょぶぶらちょに関してはお手上げだ。謎を解くきっかけが皆無だ。

 浮気のことは、どうしよう、細呂木谷にチクろうかな?

 ……いや、もう一度美斉津と三廻部を説得しよう。それでダメだったら、細呂木谷に浮気のことを話そう。

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