第2話 ぶべちょぶ

「ぶべちょぶ、ぶらちょ……?」

「ぶ、ぶべべ、べ、ぶ、ぶべべべべべ、ぶ、ぶべべべべ、ぶぶぶ、ぶぶぶ、ぶぶぶベベベベ」

「なんだ、それは?」

「ぶべ、ぶべべべ、ぶ、ぶべべべべべべ、ぶ、ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶベベベベベベベベベベぶベベ」


 ヤツは答えない。いや、答えているのかもしれないが、おれには意味不明な鳴き声にしか聞こえない。


「ひょっとして、おまえの名前か?」

「ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ、ぶ、ぶべ、べべべべべべ、ぶぶぶぶベベベベぶベベぶ」

「おまえ、名前はなんていうんだ?」

「ぶべちょぶぶらちょ」


 また人間みたいな声でそう告げた。

 やはり、ぶべちょぶぶらちょというのがこいつの名前か?


「おい、ぶべちょぶぶらちょ」

「ぶべ、ぶべべべべ、ぶぶぶぶぶぶぶベベぶぶぶぶベベベベベベぶぶベベ」

「おまえ、どこから来た」

「ぶべ、ぶぶべべべぶぶぶベベぶベベベベぶぶぶぶベベ」

「ドアも窓も鍵がかかっていたはずだ。どうやって家に入ってきた?」

「ぶべべべべべべべぶぶぶぶぶぶぶ、ぶぶぶベベベベベベぶ、ぶぶぶベベベベぶぶぶベベベベベベ、ぶぶぶベベベベベベベベぶぶぶベベぶ」


 だめだ、会話にならない。わかったことは、名前を訊いたときだけ反応が違うということだ。

 ぶべちょぶぶらちょ……か。聞き覚えのない名だ。そんな生物は知らない。

 こいつはいったい……?


「おまえ、ここから出てけよ」

「ぶべ、ぶべべべ、ぶぶ、ぶ、ぶ、べべべ、ベベベベぶベベぶぶぶぶベベ」

「このアパートはペットとか飼うの禁止なんだ」

「ぶべべぶべべべ、ぶ、ぶべべべ、ぶぶぶベベベベベベ、ぶぶぶベベぶ」

「そもそも、おれはおまえみたいな気味の悪いのを家に住ませるつもりはない」

「ぶべべべ、ぶ、ぶ、ぶべべべべべべべぶぶ、ぶぶぶベベベベ」

「うるせぇ、その変な鳴き声をするな」

「ぶべべべ! ぶ、ぶぶ、ぶ、ぶぶぶぶぶ! ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶベベ! ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ! ぶぶぶぶベベベベベベベベベベベベ!」


 そいつは相変わらずその場を動かないで鳴き続ける。

 くそ、うるさい。

 なんなんだこいつは、ほんとに。こんな鳴き声を聞きつづけたら、頭がどうにかなってしまいそうだ。

 しょうがない、最終手段だ。強制的に出ていかせてやる。

 ぶべちょぶぶらちょの目の前まで行く。近くで見ると、より不気味だった。まるで、おれのことを嘲笑うかのような目で見てくる。

 くそ、気持ち悪い。なんだその目は。

 匂いは……特にしない。無臭だ。だが、それはそれで、気味が悪い。

 両手でコイツを掴んでみる。感触は……柔らかい。肌触りはゴムみたいだ。

 ぶべちょぶぶらちょを抱えて玄関に行き、ドアを開けて外にこいつを放り出した。


「ぶぶぶぶぶ! ぶぶぶぶぶべべべべべべ! ベベベベベベベベベベベベ! ぶぶぶぶベベぶベベベベベベベベ!」


 怒ったように鳴くヤツを無視してドアを締め、鍵を掛ける。

 いまだ外からぶべちょぶぶらちょの不快な鳴き声が、ドアを隔てて聞こえてくる。

 ……あいつ、明日の朝もいたりしないよな?

 まあいい、とりあえず風呂入るか。


          *


「ふう、いい湯だった」


 二十分後くらいに風呂を出ると、


「ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶ! べべべべべべ! ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ! ぶぶぶベベベベベベベベベベベベベベ!」


 あの気持ち悪い鳴き声が近くで聞こえてきた。

 な……う、うそだろ!?

 ま、まさか!?

 急いで服を着て、リビングに行く。すると―――-


「ぶぶぶぶぶ、ぶべべべべべべ、ぶべべべ、ぶべべべ、ぶぶぶベベベベぶ、ぶぶぶベベぶベベベベぶぶベベベベベベぶ」


 テレビの横らへんにあいつはいた。

 おれをバカにするような目をして、嬉しそうに鳴いていた―-

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