ぶべちょぶぶらちょ
桜森よなが
第1話 謎の生物
そいつは突然現れた。
それまでは、いつもどおりの1日だったんだ。
大学に行って、バイトをして、家に帰ったのが午後九時くらい。
「ただいまー」
ドアを開け、暗い室内に向かって帰宅を報告したとき、
「ぶぶぶぶぶぶ、ぶ、ぶぶぶべ、べべべ、ぶ、ぶべべべ、ぶぶぶベベベベベベぶ、ぶぶぶベベぶぶ」
おれ以外だれもいないはずの部屋で奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
「ぶぶぶ、ぶぶ、ぶぶぶぶ、ぶべ、ぶぶぶべべべべ、べべべぶべべぶべ、ぶぶぶぶぶベベベベベベベベ」
嫌な声だ。黒板を爪で引っかいたときに出る音くらい不快な音。
これは、人間が出す声じゃない。なんかの動物か?
しかし記憶を探るが、こんな鳴き声を出す生物は知らない。
パチッ――――
部屋の明かりをつけると、六畳一間の部屋の端になにかいた。
「ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ、ぶべ、べべべ、ぶ、ぶべ、ぶべべべべべべべべべべべべべべべべ」
「う、うわああああああっ!?」
そいつの姿を見た瞬間、まぬけな悲鳴を上げ、みっともなく尻餅をついてしまう。
「ぶ、ぶぶ、べべべべべべべべべべべべべべべ、ぶぶぶぶぶベベぶぶベベベベベベ、ぶぶぶぶぶベベベベベベ」
な、なんだ、こいつは―-―-
右端のベッド、左端の机、中央の丸いテーブル、その奥にあるテレビ、そしてそのテレビの左横らへんにそいつはいる。
よく観察してみる。バスケットボールくらいの大きさの、濃い緑色の球体。その真ん中らへんに、四つの瞳がある。左に上下二つ、同じく右に上下二つの、合計四つの目。
これだけでも不気味なのに、さらに気味が悪いのは、その瞳が人間みたいなのだ。
多くの日本人がそうであるように、白目の真ん中に黒目がある。そこには、大きく口を開けたおれが映っている。
「ぶ、ぶべべべ、ぶべべべ、べ、べべべ、ぶぶべべべ」
「うるさい!」
「ぶべべべべべ、ぶべべべべべべ! ベベベベベベベベベベ!」
「黙れ!」
「ぶべべ、ぶぶぶぶ、ぶぶべべぶぶべべべべべべべ! ぶ、ぶぶぶ! ぶぶぶぶぶベベベベベベベベ!」
言うことを聞かない、いや聞こえていないのかもしれない。やつは不快な音を出し続ける。
「ぶぶぶ、ぶべ、ぶべべべべ、ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶべべべべべべべべべべぶべぶべぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶうぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。
「ぶぶぶぶぶ、、ぶべべべべぶぶぶべべべべべべ、ぶ、ぶぶぶべべべべ、ぶぶぶぶぶベベベベベベ」
「うるせぇっつってんだろっ!」
「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ、ぶべべべべべべべべべべべべべべべべ!、ぶぶぶぶぶぶ! ぶぶべべべぶぶぶべべべべべべべべ! ぶぶぶぶぶぶ、ぶべべべべべべべ!」
うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ、うるせぇっ!
「おまえ、なんなんだよっ!」
「ぶべちょぶぶらちょ」
「あ?」
「ぶべちょぶぶらちょ」
ヤツは繰り返す。
その一言だけ、やけに人間くさい声なのが、気持ち悪かった。
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