2017.5.31 遠坂青・蜂須賀路実・須藤靖彦クランクアップ

 最終日の撮影は満を持して帝映撮影所で行われる。

といっても、撮影所内には常時仮面ナイトシリーズ・スーパーレンジャーシリーズ・刑事ドラマほか連ドラ用のセットが組まれているため、撮影所での撮影は屋外――通路や階段を使ったシーンの撮影と変身バンクの合成用撮影のみだ。


「ヤス、その……悪かったな。一昨日」


変身バンク撮影のためにアップ用のスーツに着替えていたら、不意に謝罪の言葉がこぼれた。


「サムライジャーの事『黒歴史』なんて言っちまったけど、思い出したくないとか、やんなきゃよかったなんて全然思ってないから。てゆーか、むしろ人とは違う青春送れてよかったと、今は思ってる」


思えばサムライジャーを撮影していたあの1年半が、俺の人生の最盛期だった。

ただひたすらに目の前のことだけ考えて、オンエアを見て感動して、地方巡業とかイベントでサムライジャーが好きな人たちの多さに感動して――『亜川青』のままでは絶対にできなかったであろう体験がたくさんできた。

演技は思い出したくもないような拙いものだけど、あの日々は今でも俺の中で輝き続けている。


「白蓮……」


「だから、サムライジャー10周年作品を企画してくれたお前には感謝してる。ありがとう。俺をもう一度、『遠坂白蓮』にしてくれて」



「本番行きまーす。よーい……」


 きっと、俺たちに次はない。明日から俺はしがないサラリーマンに戻るし、青龍渓達臣はサムライジャーの続編を書く気はないし、スーツアクターの方々だって10年後にはみんなやめてるかもしれない。だからこそ、この映画が俺たちだけでなくファンの人たちにとっても最高の作品になってほしい。


「サムライブルー……水鏡、末武!」


 スタジオにカチンコの音と監督の声が響く。これが、正真正銘、最後のサムライチェンジだ。


「遠坂白蓮さん、蜂須賀路実さん、須藤靖彦さんオールアップです!お疲れ様でした!」


 誰かがそう叫ぶとどこからともなく拍手が上がった。スタッフから青を基調とした花束を贈られたら、なんだか涙が出てきた。


「……ありがとう、白蓮。絶対、いい映画になるよ」


「ああ。未来生まれるであろう俺の子に、胸張って『パパはヒーローだったんだ』って見せてやりたいぜ」


「アハハ!気が早すぎじゃない?」


 ――しかし、その思いはむなしくも初号試写で裏切られることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る