2017.5.29 居酒屋にて
長かった撮影も残すところあと数日。少し早いが央士とカフカは俺たちがクランクアップしても撮影が残ってるのと全員のスケジュールが合う日が今日しかないので、打ち上げをすることにした。
ラストシーンの台本を渡されていない俺とヤス、ローミンは明後日――変身バンクの撮影をもってオールアップとなる。アフレコも別だから、どんな終わり方をするのかは試写を見るまで分からない。
「「「カンパーイ!」」」
「……乾杯」
ジョッキを勢いよく打ち付けて生ビールを一気に飲み干す。疲れた体にアルコールが染みるぜ……
「そういえば、
「そうそう!
「明後日は撮影所行くから、その時に会えるといいね」
カフカとローミンはご機嫌だが、俺の隣に座るヤスは浮かない表情だ。
「どうした?財布忘れたのか?」
「……クランクアップが近づくたびに、不安になるんだ。本当は、サムライジャー10thなんてやらない方がよかったんじゃないかって」
確かにサムライジャーはテレビ放送で話が綺麗に完結してるから、今回の続編は蛇足かもしれない。でも、それは放送当時10thをつくるなんて考えてなかった以上は仕方ないし(エンジンジャーは続編作る気マンマンな終わり方だったけど)、先駆者であるニンポウジャーやトクソウジャーはちゃんとファンに受け入れられてるからそんなに気にすることじゃない気がするが……。
「それに、この前見ただろ。現場入りする前の央士を」
一昨日ぐらいのアレか。役作りに気合入ってんなとは思ったが、別に今に始まったことじゃないし、気にしてなかったな。
「アレがどうかしたのか?」
「……央士は、もうずっと前から心を病んでいるんだ。ああやって役に入り込まないと、まともに会話すらできない」
「えっ」
嘘だろ……撮影の時は普通に会話できてたし、たまに芸能ニュースで見る時も受け答えがはっきりしてるから、央士がそんな状態だなんて思いもしなかった。
「……そもそも今回の企画はオレのわがままから始まったんだ。央士はきっと、遠からず芸能界を引退する。ならば、『俳優:朱雀央士』最後の主演作はサムライジャーであってほしかった。オレ達の座長の有終の美を飾るために、10年来の戦友を見送るためだけに、続編に乗り気でなかった
「うるせえバーロー!」
ヤスの愚痴を聞いてたらだんだん腹が立ってきて、思わずでかい声が出た。酔いが回ってきたからかもしれない。
「黙って聞いてりゃグチグチグチグチウジウジウジウジ!こっちはてめえのわがままのせいで黒歴史堀り返されたうえに撮影のために有給全消費して上司からクソほど嫌味言われたんだぞ!そんなに青春プレイバックの同窓会がやりてーんだったら俺を巻き込まずにてめえらゲーノー人だけでやってりゃよかったじゃねえか!!」
「ちょっと白蓮!さすがにそれは言い過ぎ――」
ローミンが制止するが、怒りは収まらない。
「そんなにファンからの評価が怖いならこんな映画とっととお蔵にしちまえ!この、すっとこどっこい!」
ヤスの顎にアッパーをお見舞いしてやると、あっちは胸ぐらを掴んできた。
「お前にオレの気持ちが分かるか!仕事で会うたびに病んでいく央士を9年見続けた、オレの気持ちが!」
撮影中は気にならないのに、今は化粧の匂いがやけに鼻をつく。
「知らねえよ!あと最近テレビで見るたびにずっと思ってたけど化粧なんかしやがって!だから女々しいんだよオメーは!」
「美容に気を遣ってると言え!お前こそ俳優辞めて一気に老けこんだくせに!」
……そこから先はよく覚えていない。気づいたら自分ん家の玄関で、時刻は朝9時。カフカからえげつない量の着信が入っていた。
[おはよう酔っぱらい。気は済んだ?]
電話口からカフカの冷ややかな声が聞こえる。
[あのさあ……気持ちはわかるけど、おれたちもういい大人じゃん?自分の意見が通らない時は相手に合わせるのも必要じゃないんですか?]
「いやもうハイ……全くもってその通りです……」
[はぁ……今日の撮影はオレとオーさんとヤス先輩だけでやるから休んでいいよ。明日、よろしくね]
「はい……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます