第6話

あれから、私たちはさっそく教室へ戻って、友達になろうと言いながら3人とも凄い形相でユリの席へと押しかけた。

ユリは一瞬きょとんという顔をした後、「アハハ!」と楽しそうに笑いながら了承した。可愛いな。


「皆凄い勢いで迫ってくるんだもん。おかしくて笑っちゃったじゃん。」


「いやあ、一刻も早く友達になりたくて!ウチら今どう話しかけるか作戦会議していたんだよ!」


「そんなことしていたの!?もしかして先生に呼び出されたのも仲良くなってあげてねって言われたみたいな感じ?」


「…まぁそんな感じね。」


「なぁんだ。そういうことか!何やらかしたんだろうこの人って思ってたんだよ、ごめんね。それより、その、赤い髪の」


「篠根ユリだ。」


「ユリちゃんは私と知り合いだった…?」


 先程の私の態度をまだ気にしていたのだろう。

もし知り合いだったら先程の態度はまずかったとでも思っていそうな顔だった。

眉尻を下げて、申し訳なさそうな表情をしている。


「いや、えー…」


「さ、篠根ったら、あのノリで話しかけたらすぐ友達になれると思って話しかけたんだよ!おっかしいよね、あんな話しかけられ方したら逆に警戒しちゃうに決まってんじゃん!」


「あ、あぁ…そうだ。ああ話しかけたら興味もってくれるかなって思ったんだ。」


とっさに誤魔化しが思いつかず、思わずたじろいでしまったけれど、笹本が助け舟を出してくれた。


すごく助かったが、もうちょっとマシな言い訳を考えてほしかったという欲もある。これだと私が完璧にユリから変人扱いされてしまうではないか。


そう思いながらユリをちらりと見やると、先程までの申し訳なさそうな表情から一変、ポカンという風な顔をしていた。


これはどういう表情だ。やっぱり引かれてしまったのだろうか。

そう焦ったため、今からでも頭をフル回転させて別の言い訳にかえようと思った。


しかし、それはどうやら杞憂だったようだ。

ユリは先程三人で話かけた時よりも一層破顔して笑いだした。


その笑いっぷりといったら凄く、今度はこちらがポカンとする羽目となった。


そんな理由だったの、面白いねユリは。

そう言いながらお腹を抱え、目じりに涙をためながら笑うその姿は、いつの日か見た笑顔とそっくりで、ああ、記憶は変わってもユリの根っからの部分は変わっていないのだと知った。


そう思うと急に涙が出そうになったが、ここで泣き出しては今度こそ変人扱いされかねないのでグッとこらえたけれども。


「あ、そうだ。二人の名前は?まだ聞いてなかったね!」


「ウチは笹本サヤ!サヤって呼んでよ!」


「私は鹿野ミミよ。よろしくね、ユリ。」


「サヤにミミ、それからユリ!これからよろしくね!」


「ああ、よろしくな。」


「それにしても、ミミのその髪飾り、すっごく可愛いね!どこで買ったの?」


「これはね、実は手作りなの。」


「えっ!?それが手作り!?凄い!」


「…よかったらいつか作ってあげるわ。」


「本当?やった!ありがとうミミ!」


 髪飾りを褒められた鹿野は少し顔を赤らめ、嬉しそうな表情をしていた。


そうして今度作ってくれるという言葉を聞き、ユリはミミに抱き着いた。羨ましい。


まぁ、ユリの人懐っこさも相変わらずで、記憶が少し変わっただけでやっぱりユリはユリなのだと思った。




 こんなやり取りをする内に、私たちは案外ユリを助けることは簡単なのではないだろうか、このまま順調に進めばこんな平穏な日々が続くのではないのだろうかと思った。


 私たちが常に死と隣り合わせであることも、ユリの周りで起こる事情のことも忘れて。

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