第4話

それからチカと何度も遊ぶようになった。初めの方は近所の子を交えてみんなで遊んでいたけれど、何度もあっているうちに二人でも遊ぶ仲となった。


公園で遊ぶことの方がおおかったけど、時々互いの家へ遊びに行くこともあった。

私の親は、家へ誰かを招くことにいい顔をしないから、親が不在の日に遊びに来るように誘った。ユリは、初めて私の家を見た時、その大きさに度肝を抜かれて口をあんぐりとさせていたのを今でも鮮明に覚えている。


ユリは私がこの家の子だってことを知らなかったみたいだ。

もしかして、キッチンも広かったりする?というユリの問いかけに頷けば、もしよかったらでいいんだけど、料理の練習させてくれないかな!と言ってきた。


別にいいけど、私も料理が得意なわけではないから、母親と家で練習したほうがいいと思うぞと言うと、それじゃだめなの、と感情が抜け落ちたような顔で言ってきた。

その時のユリの顔にゾッとした。何がユリにそんな顔をさせるのか問いただしたかったけど、それは聞いてはいけないことのような気がして、黙っていた。


そうして私の家に来れば、時々料理の練習をした。それを見て分かったのは、ユリは料理をさせてはいけない人だという事だった。

苦手とかそういうレベルじゃない。正真正銘の料理下手だった。

それでも、一生懸命練習してうまくなろうとする姿は微笑ましかったので、精一杯応援と手伝いをした。そのうち、私の料理の腕が凄く上達していったのは言うまでもない。

ユリは相変わらずのままだったけれど。


ユリの家には親がいる時にも遊びに行った。

ユリの母親は第一印象通り、すごく優しい人だった。

でも時々、妙な違和感を覚えた。ユリの母親と喋るとき、何かわからないがもやもやとした負の感情が伝わってくるのだ。

そう感じた時は大抵、ユリの表情は曇っている。それも私が見ていることに気づけばパッと笑顔になるから一瞬の間だけれど。


あの日、初めてあった日もユリはそんな表情をしていた。

だから、何か理由があるのだろうと思い、聞いてみようともした。けれど、ユリは理由を聞こうとするとあからさまに話をそらした。


触れてほしくないのだと悟った私は、それ以上どうすることもできなかった。初めてできた友達との距離感をつかめずにいて、どこまで相手へ踏み込んでいいのか分からなかったのだ。


そんな悶々とした不安を抱えながらも、ユリと出会って二年ほどたった。

学校も違うし、お互い用事が多くて遊べる日はあまりなかったけれど、ユリと過ごす日々は楽しくて、学校のこと親のこと、嫌なこと全部を忘れさせてくれた。

だから、私は魔物の討伐も頑張れたのだ。ユリがいるこの場所を守りたい、ユリを守りたいそう思うようになったから。


そんな時、パタリとユリの消息が途絶えた。また明日も遊ぼうねと手を振り別れた、なんの変哲もない日常だったはずだ。それなのに、どうして。


それから何度もいつもの公園や家へ足を運んだが、ユリに会うことはできなかった。ユリの消息を知るものさえいなかった。



そうしてやっと、私は何としてでも、ユリが暗い顔をした理由を聞いてあげていればよかったと後になって悔やんだ。

そうしていれば、何か変わっていたかもしれないのに。大事な友達を、守れていたかもしれないのに。


今更、どうすることもできないけれど。

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