友達になりたかったけど友達になれなかった君へ

愛野ニナ

第1話




 偽りに満ちていた君と過ごした時間。

 それでも私は、

 その中にもほんの少しだけ真実の気持ちがあったと思いたい。

 少なくとも私は君のことが好きだったから。



 とてつもなく苦しい時に君と出会った。

 連続して人に裏切られた直後で心が麻痺してもう何事もどうでもよくなっていた頃。

 なんとなく話を交わした君とは、

 好きな音楽や小説の趣味が近くて互いに創作もしていたのでこれは気が合うかもと思ったのだ。

 つらいことが連発した直後だったけど、

 君と時々会うようになって一緒に遊んでいると楽しかった。

 好きな音楽や小説の話を存分に語り合える君の存在に私は癒されてもいた。

 ちゃんと友達になれたと思ってたんだよ。



 問題は君が異性だったこと。

 私は去年の三年付き合った彼氏と別れたトラウマがひどくて恋愛できる気分じゃなかった。

 その話も君にはしていたしそれを受け入れてくれていると思ってた。

 第一、君は全く何ひとつ私のタイプじゃなくて異性としての恋愛感情は一ミリもわかなかったから。

 だからこそ一緒にいても楽だからいいやくらいに思ってたんだよ。

 でも君は違ってたみたい。

 私のことを友達とも仲間とも思っていなかった。

 そして私もそれは同じだったかもしれない。

 仲良くなってしばらくして気づいた違和感から目を背けて気づかないフリをした。



 もう正直に書いてしまうね。

 私には昔からどうしても苦手なものが三つある。

 それは、カルト宗教、マルチ、自己啓発。

 偏見なのもわかっている。それで心が救われてる人も心を強く保てている人もいることは理解できる。

 でも私はこの三つだけはどうしても生理的に無理なのだ。

 心と体が拒否してしまう。

 私は早い段階で君が某マルチの人だとわかっていた。家の中がその商品ばっかりだし、それに加えて自己啓発本が好きなことも。

 そして君のちょっとした言動の中にもマルチの人特有の得体の知れない不気味さを感じてもいた。

 私はモヤモヤしながら何度も直接きいてしまおうかとも思った。

 特にマルチのこと。

 でもやめた。

 君が私にそのマルチ商品の話をしたこともすすめてくることも一度もなかったし、

 自己啓発本の話は時々してたけど別に軽く流す程度の会話だったからあまり気にならなかった。

 その違和感に私が目を塞いでしまえば、

 それ以外で君と話したり遊んだりするのは楽しかったから。

 友達ってそうでしょう。

 苦手な部分があっても楽しい時間を共有できればそれでいい。

 私は自分にそう言い聞かせた。

 例えその苦手な部分が、

 私がどうしても苦手な「最大限の苦手」であっても。

 今でも私は、君と話し合うことさえなく絶交した原因が、

 君がマルチの人だったからだとはやっぱり思いたくないんだ。



 君と友達になれたと思って私はうれしかった。

 仲良くなった記念に一緒に曲を作ろうということになって、

 私は君が歌を入れてくれたらいいなと思って曲を作った。

 編曲して録音してミックスまで完了させたトラックを君にあげた時は、君も喜んでくれているように思えた。

 君は今までも私の曲をきいてくれたり小説を読んでくれたりしていたみたいで創作仲間として私と友達になりたいと言ってきたからね。

 実は私はあんまり君の作品には興味がなかった。

 私の作品をきいてくれたり読んでくれてるお礼として君の音楽も少しは聴いて、「ありがとう」の意味での「かっこいいね!」くらいは言ったけど。

 でもそこは別に君の作品じたいに何も感じるところが無かろうとそれは私の好みの問題で、

 君自身と仲良くなることとは別段関係ない。

 作り方や作ってる作品は私とはぜんぜん違っていても、創作そのものに対する信念みたいなものには共感できるところが多かったから、

 友情の記念に一緒に曲を作りたいなって自然に思ったんだよ。

 この気持ちに偽りは無い。



 でも、友達だと仲間だと思っていたのは私だけだった。

 君は本当は私の音楽にも小説にも興味なんかぜんぜんないくせに、

 私に近づくために私の作品に興味があるフリをしていた。

 君の作品に興味が無かった私もお互い様なのでそこは別にいい。

 私のメンタルが弱ってる時に

「創作の話をしよう」と言って近付いてきたのが卑怯なのだ。

 私と付き合いたいなら別に創作の話なんか持ち出さなくても、

「なんか気になるから仲良くなりたい」って言ってきたらいいのに。

 そうしたら私だって初めから彼氏候補かどうかで判断するよ。

 創作仲間としての友達になろうとは思わない。

 ちなみに元彼は私の小説を読んでもないし興味もなかったけど興味があるフリもしなかった…いろいろあったけど正直な人ではあったな。

 私も別に彼氏や友達が私の音楽や小説に興味があろうとなかろうと、別の部分で共感できたり一緒にいて楽しければそれでいいと思ってる。

 それなのに。

 ただ私に近づくために私にとって大切な音楽や小説の創作の部分をついてきたから、それがすごく悔しくて悲しかったよ。

 君と一緒に曲を作るのを私は本当に楽しみにしてたから。

 だけど君にとって私は友達でも仲間でも無かったから、私と作る予定の曲より、後から言ってきた人との曲を優先したよね。

 私のことを他の仲間より一段下において、見下してた。

 君のこと好きだったのは本当。

 ちゃんと友達になりたかった。

 でも君の彼女にはなれないよ。

 異性としての興味はゼロだったから。

 君が私と付き合ってると思ってたことは心外だった。

「ありがとう」「うれしい」くらいの意味で誰にでもすぐ「大好きだよ」と言ってしまう私も悪かったから……そこはちょっぴり反省しておこう。

 


 こうして何も伝えられず、和解もできないまま君とは絶交した。

 束の間の友情だった。

 友情でさえなかったのかも。

 ただの偽りだったのかな…よくわからない虚しさだけ。

 今となってはもう君に伝えたいことも伝えられることもないけど、

 どうかお元気で。


 

 そしてこんな他愛もない話を読んでくれた皆様、ありがとうございます。

 人間関係が苦手な私からアドバイスできることなど何もありませんが、

 違和感を抱えたままでいるよりは、

 たとえぶつかっても気持ちはちゃんと伝えて納得いくまで話し合ったほうがいいとは思います。

 偽りの友情は必ず破綻する。

 言葉を尽くしてもわかり合えない人もいるけれど、

 言葉にしないとそもそも何も伝わらないよ。

 以心伝心は理想であっても現実じゃない。幻想だから。

 あとやっぱり異性との友情は距離感が難しいよなと痛感した出来事でした。




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