第4話「起点」

 右頬に裂くような痛みが走る。


「速いっ!?」


 太刀筋が見えなかった。微かな恐怖心がココロに染みていく。


「カケル!! 後ろだ!!」


 アヤネは叫び、地面を深く蹴る。木刀を空気を断つように走らせバケモノの攻撃を受け止める。アヤネの刀は軽く弾かれる。


「なっ!?」


 アヤネは木刀を不規則に振り、相手に攻撃する隙を与えない。


 朧げだったバケモノの姿が鮮明になっていく。


 肘から下が刃物のようなものになっていて身長はやや高く、二つの鋭い眼光がこちらを睨んでいる。


 アヤネの動きは次第に鈍っていく。人知を超えた速度で刀を振るうのには相当の体力を使う。


 見てるだけじゃこのままジリ貧になって負けるだけだ。何かしないと。かえって邪魔にならないかつ、ダメージを与える方法。援護射撃しかない。なるべく細く、出力はほぼ最大で。


 右手の人差し指に電気を流し始める。激しく動くバケモノの頭を慎重に狙う。


「インパルス!」


 あの時缶を打ち抜いたようにやればいい。人差し指に溜めた電気を発散させ、放つ。


 放たれた電流は大気を貫き、バケモノの頭を完全に捉える。バケモノの側頭部を貫通し、バケモノの動きが一瞬止まる。


「ナイスサポート!」


 アヤネは後ろへ腕を引き、バケモノの胸部に木刀を突き立てる。


 次の瞬間。バケモノの胸部か触手のようなものが無数に生え、木刀を根元から切断する。切断された木刀は放物線を描き、地面に突き刺さる。


「何があった!? クソ!」


 アヤネはすぐさまバケモノと距離をとる。


 一気に勝ち筋がつぶされていく。


バケモノは口をぐぱぁと開き、場に再び大きな金切り音が響く。


「激昂……しているのか?」


 アヤネは眼鏡をくいっと上へ押し上げて


「私はもう戦えない。肉体が脆いからね」


 アヤネは折れてふにゃふにゃになった右手を振る。


「戦って分かった。アイツ……上位種オーバーロードだ戦闘能力がダンチだ。最大限のサポートはする。なんとか頑張ってほしい」


 アヤネの眼が黄色一色に染り、アヤネは指を鳴らす。


「さあ行こうか! アゲてこう! 『心読感染テレパシンドローム』」


 アヤネのスナップした指から黄色い粒子のようなものが空間に放出され、粒子が俺の体を包み込むように吸収される。


「60秒だ。相手の動きが手に取るようにわかるようになる」


「ありがとう」


  俺は両腕に電気を流し、纏わせる。


「さあ!第二ラウンドと行こうか! カケル!」


「ああ!!」


 バケモノの側頭部に空いた風穴が塞がっていく。バケモノは再び活動を再開する。


 バケモノは天高く飛ぶ。


 バケモノの動きの軌跡のようなものが幾つも見える。これなら。


 脚に電気を巡らせ、地面を強く蹴る。


 近距離で最大限のインパルスを喰らわせてやる!


 バケモノは腕を引き、突きを繰り出す。その刃は大気を切断し俺の首元へと走り始める。


 空中で体を翻し、蹴りでその刃をパリィする。


 カラダは自由落下を始める。腕を振り下ろし、下方向に向けて放電する。


 電流は空気を伝い、バチバチと音を轟かせる。

 

 慣性が乗ったことによって上方向へと上昇。


 バケモノは絶えず斬撃を飛ばす。それを糸を縫うように回避。


 腕を最大限振りかぶり、電流が流れるような恐ろしい速度で放つ。


 バケモノは咄嗟に防御の体制をとる。


 遅い! 俺の拳は胸部を捉えている!


 バケモノのクロスした腕を軽く粉砕し、胸部をコアごと貫く。


『ボルトナックル!!!』


 コアを破壊されたバケモノは次第に色を失い、灰になっていく。


 結界に亀裂が入る。維持が不可能になり、次第に廃病院に戻っていく。


「なんとか勝てたぁ」


「お疲れ様。カケル。カッコよかったぞ!」


 アヤネは左手でサムズアップする。


「てか右手大丈夫?」


「あ。これ? その気になれば3日で治せる」


「え!? すご」


 アヤネは得意げな表情をする。


「それはそうと早くずらかるぞ。公安が来る」


「公安?」


 公安って政府の組織のことだよね。なぜ公安が。


「あー。公安がね異能力者とバケモノを根絶やしにしようとしてる。社会の安全のために」


 アヤネは念を押すように


「公安トップのアキラって奴に目をつけられたら詰むから早くして。早く」


 アヤネはかなり焦っている。


「わ、わかった」


 逃げるように家へ帰った。


 ……


「どうやら先を越されたそうっすね」


 パーカーを身にまとった少女がため息をつく。


「結界術が使われていた痕跡があります」


 特殊部隊のような身なりをした男がパーカーの少女に話しかける。


「隅々まで調べてほしいっす」


「了解しました。全員散開。痕跡を探せ」


『はっ!』


 ぞろぞろと特殊部隊の隊員が廃病院に入っていく。


 パーカーの少女は頭の後ろで腕を組んで


「公安はなんで私なんかにこんな任務を~。証拠を探せって。戦いたかったなぁ」


 特殊部隊のリーダーの男は急いで少女に駆け寄る。


「異能力者が使っていたとみられる木刀の刀身を発見いたしました。この欠損から見てここにいた怪異は上級怪異のうちの一体。サムライだと思われます」


「ほぅ。それは。強い異能力者がいたってわけっすねぇ」


 少女は舌なめずりをする。









 





 


 















 


 



 

 







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