第3話「遭遇」
「いくよー」
アヤネは空き缶を宙に放り投げる。
俺は瞬時にイナズマを充填し、放つ。
人差し指から放出されたイナズマはバチバチと光を放ちながら缶を貫く。
アヤネは拍手をしながら
「お見事!」
あれから一週間くらい経ったかな? イナズマの操作にも慣れてきた。
アヤネはベンチに腰掛け、白衣のポケットからスマートフォンを取り出す。
「じゃあそろそろ実践と行こうか。行こう。化け物を狩りに」
俺は体に帯びたイナズマを発散させ、アヤネさんの隣にそっと腰掛ける。
アヤネはスマホの電源を立ち上げ、ブラウザにて『ネクロノミコン』と検索する。
ネクロノミコン。どっかで聞いたことあるような。
リンクをタップした途端、画面に眼を模したロゴが表示され複数の記事が浮き上がる。
「そう。このサイト便利なんだよ。烏って人が運営してるんだけど。心霊、怪異そして私たちが今回探しに行く化け物の記事が載ってて助かる。運営者と握手したいところだよ」
「化け物の情報……。あ。あった。暗黒を切り裂く侍だって。ネーミングセンスおもろ」
いかにもいかにもやばそうな名前だ通常だったら笑い話になっているが、あのトラックの運転手を見た後だとそんな化け物がいてもおかしくないと思ってしまう。
「なになに……廃病院にて影を食らう月が満ちる日に」
「満月の日に廃病院に現れるって感じか」
コツコツコツ。アヤネの革靴と地面が接触する音が薄暗い路地裏に響く。
フードを深くかぶった少年が室外機のようなものに座っている。
「ようやっと来たか……」
「や。来たよ。アレだろ。人為的に覚醒者を生み出す件の」
「あぁ。そうだ。意図的に覚醒者を生み出す。苦労したよ」
「なかなか惨いことするよね」
アヤネはポッケから飴を取り出して口に放り込む。
「で? 何がしたいの?
カラスと呼ばれた少年はゆっくり立ち上がる。
「王はゆりかごの中に」
そう残しカラスはほどけるように姿を消す。
「回りくどくてわかんないね」
アヤネは飴をかみ砕く。
……
そんなこんな? で廃病院にやってきた。
「ほんとにいるの? 侍?」
俺は懐中電灯のスイッチをオンにし、辺りを照らし始める。
「埃っぽくてやだなぁここ」
アヤネは白衣の裾を口元にあてる。
「あ。侍ねいるよ」
なんでアヤネさんは烏という人物をそこまで信用しているのだろうか。彼女の携帯のネクロノミコンへのアクセスは初めてだったのに。
廃病院の一階を探し回ったが。何の痕跡もなかった。
「あーあ。アヤネ飽きた。帰るか」
「二階がまだじゃん」
「確かにそうだね」
二階は取り壊しが進んでおり壁が、すべて取り払われていた。
踊り場から部屋に足を踏み入れた瞬間、アヤネは何かを察したかのような顔をして。
「あー。アレか。見て。あそこに刺さってるやつ」
アヤネさんの指さす方向に何かあるのだろうか?
「ん?」
部屋のど真ん中に日本刀のようなものが刺さっている。某勇者の剣のように。
「バケモノハンターの私から言うと今回は外れみたいだ。あの日本刀人、ヒトの恐怖とかが籠ってるだけでバケモノじゃない。だけどヒトの思念が籠ってる武器はバケモノに有効だ。持って帰ろう」
明らかにおかしいよね。抜いたら絶対なんか起こるって。バケモノ出てくるって。
「アヤネさんまtt」
「え? 何?」
もうすでに刀はアヤネの手によって引き抜かれていた。
「あ」
「ん?」
引き抜かれた刀から無数の光の線のようなものが空間を伝い、地面へと広がっていく。
線は放射状に広がっていき、がれき、壁、廃れたベッドに引かれていく。部屋は蜘蛛の巣柄のように仕切られていき、徐々に空間が崩れ始めていく。
『
空間は完全に崩壊し、城の天守閣のような風景に塗り替わる。
「は?」
思わず声が出る。さっきまで廃病院の一室にいたのに。なぜ和風な部屋に?
アヤネは苦虫をかみつぶしたような表情で
「クソ。結界か」
「結界? 何それ?」
アヤネはギターケースを投げ捨て木刀を急いで構える。その手は微かに震えている。
「緊急事態だ!! 全力で頭をフル回転させろ!! 異能を最大限解放しろ!」
語彙の乱れからは焦りが感じられる。
あれだけの実力を持つアヤネさんが焦るってことはよっぽどまずい事態なのだろう。
「充填開始。いつでも行ける」
身体に力を巡らせ、帯電させる。バチバチと光を放ちながら電気を帯びていく。
「ここは奴の掌の上だ!! 一つの行動が死に直結する!」
奴とは何なのか。ここがどこなのか。でもこれだけはわかる本能が言ってる。逃げろと。
突如として場に耳障りな金切り音が鳴り響く。
目の前に無数の線が重なり、徐々にヒトの形を形成していく。
完全に形成が完了したその時。もうすでに右頬が切り裂かれていた。
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