第1話「羽化」
あぁ。どうなったんだっけ。トラックに飛び込んで、少年を助けられたっけ?
ヒーローになれたのかな? でもなんだか達成感がある。ぐるぐると同じ場所を廻るつまらない日々にいい感じのピリオドが打てた。
『まだ。終わりじゃないよ』
暗い部屋? の中、声が響く。少年の声が。
『これは始まり。目覚めだ』
暗い病院の中。緑色に光る瞳の少年はこちらを見つめている。
「はっ」
ゆっくりと目を開く。
「あークソっ。ガキがよ」
そこにはワイシャツを着た男性が立っていた。トラックのフロントは大きく凹んでおり、引きずったような血痕が地面を染めている。
その眼はドス黒い憎悪に染まっていた。
トラックの運転手さんかな?生きてることを伝えなきゃ。
「大丈……夫。生きてますよ」
掠れた声を捻り出す。
声は届かない。
「どうするんだよ!! オレの人生!! あのガキのせいだ。あのヒーロー気取りのガキの」
『あのガキさえいなければ』
トラックの運転手は黒いモヤ? 炎のようなものに包まれる。何が起きてるんだ?
トラックの運転手の身体はボコボコと膨れ上がり、歪な形を形成していく。片腕だけ膨張した、黒い人型の化け物? のような姿に。
化け物は咆哮を上げ、こちらへと走ってくる。
ヤバい。逃げなきゃ。本能が言ってる。逃げろと。
動け俺の足。重い身体を引きずって立ち上がる。立っているのがやっとだ。逃げれる気がしない。
化け物は怒りのままに拳を振るう。
「うわぁぁぁぁ!!」
最後の力を振り絞り、拳を突き出す。
拳と拳が衝突する瞬間。緑色のイナズマのようなものが場に走る。
恐る恐る目を開くと化け物の拳は抉れていた。
「俺がやったのか?」
だんだんと身体が軽くなっていく。イナズマが身体を駆け巡る。これなら。やれる。
化け物は痛みに悶え苦しんでいる。
地面を軽く蹴り、宙を舞う。空中で体を捻らせ蹴りを放つ。
イナズマを纏った蹴りは化け物の胸部を貫き、後ろ方向へ吹き飛ばす。
化け物の身体はトラックに叩きつけられ、血のようなものを吐き出して呻く。
地面を強く蹴り、化け物との距離を一気に詰める。
「これで終わりだ!!」
イナズマを纏わせた拳を打ち出された弾丸のような速度で化け物の胸部に打ち付けるように放つ。
放たれた拳は空を切り裂き、風穴を開ける。
トラックのフロントガラスが砕け散る。
化け物は完全に活動を停止して溶けるように人の形に戻っていく。
なんとか倒したみたいだ。元に戻ったっぽいし。たぶん大丈夫だろう。
「ふーっ。俺の体には一体何が起きているんだろうか。緑の瞳の少年といい、自在に操れるこのイナズマのようなもの。状況が全く理解できない」
足音が、人の気配がする。
「いやー。面白いね。私以外にも
背後をとられた。アウェイカー?なんだそれ? 力を使い果たしたのか? 身体に力が入らない。
『少し眠ってもらおうか』
頭の中を女性の声が駆け巡る。次第に意識は薄れていき、倦怠感が身体を襲う。
……
「んー。やっぱりか」
カタカタカタとタイピング音が聞こえる。
意識が朦朧とする。頭がふわふわする。
いつもは心地良いタイピング音も今となっては恐ろしい。異能に目覚めた人あるあるなんだけど、研究所に捕えられて解剖されたり、実験されたり、これ以上は考えたくない。
「十分ココロの中は見させてもらったよ。ありがとう」
『起きていいよ』
再び頭の中に声が響く。
意識は鮮明になっていく。
「おはよう。驚かせて悪かったね」
コーヒーの香ばしい匂いが漂う部屋の中、俺は目覚めた。
「どこだここ!?」
頭がズキズキと痛む。身体のあちこちが痛い。
「あ。あんま激しく動かない方がいいよ。さっきの戦闘で体細胞がかなり損傷してるから」
ゆっくり起き上がるとベットの上にいた。
茶髪セミロングに白衣をまとった女性がデスクに座っている。デスクにはノートパソコンが置いてあり、何かのデータが表示されている。
部屋の床には新聞の記事が散らばっており足の踏み場がない状態だ。壁には洗濯物が乱雑に干されており、とても綺麗とは言えない部屋だ。
「部屋が汚いって? それはさ……あの。げ、現代アートだよ。たまにあるでしょ理解し難い芸術作品。アレだよアレ」
言い訳が見苦しい。
「なんだとこのやろう。ま。部屋が汚いのは天才だから。ほら天才って一部が秀でている代わりに大きな欠点があるとかなんとか」
「てかさ、てかさ。これすごくない? さっきから思考読まれてるのわかる? 私サイキッカーなんだよ!! これにはアヤネポイントプラス六億点」
「あ。あと心配しないで身体は弄ってないから。少しココロの中を見させてもらっただけだから。本当はバラしたかったけど……」
「解剖好きなんだ。えへへ」
白衣の女性は変態的な笑みをこぼす。
「うわ。エッチな広告だ。クリックしよ。じゃなくて。キミの異能について話そうとしてたんだ」
白衣の女性はタイピングをやめ、座っている椅子をくるくると回転させてからこっちを向く。
綺麗な茶髪のセミロングに丸メガネをかけた細身の女性はメガネをくいっと押し上げて
「私はアヤネ。突然なんだけど私の友達になってくれないかな? 異能持ち同士仲良くしようぜ。えへへ」
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