第4話 Chapter4 「ユモトン411と国家建造」 【地球】

Chapter4 「ユモトン411と国家建造」 【地球】


 私と佐山さやかは五反田のカラオケボックスにいた。佐山さやかが、話があると言うので定時後、カラオケボックスで合流したのだ。私はレモンサワーとミックスナッツとポテトフライを注文した。峰岸が言う通り、カラオケボックスは密談に最適の場所だった。会社の会議室や応接室は危険だった。すでに私と佐山さやかは社内で噂になっている。色ボケ中年カップルなんて言っている社員もいるらしい。しかし事実は違う。私も佐山さやかも七海を愛しているのだ。曲は適当に5~6曲リクエストした。面倒くさいので最後の曲はリピートにした。


 「水元さん、大マゼラン星雲は遠いですね。私、宇宙の事を勉強しています。なんとかしてMM378に行けないかと思って」

「そりゃ無理だ、16万光年だ、ジェット旅客機で1500憶年かかる」

「宇宙って凄く広いんですね。勉強してびっくりしましたよ。宇宙の広さ、星や銀河の大きさと数、想像が追い付かないスケールです。世界中の砂浜の砂粒の数より宇宙にある恒星の方が多いなんて知りませんでしたよ」

「ああ、俺も七海に出会って宇宙に興味を持つようになったよ。凄いよな、宇宙が出来る前は何にも無かったんだ」

「でも楽しいです。宇宙の事を知れば知るほど七海ちゃんに近づける気がするんです。七海ちゃんは宇宙船の操縦もできるんですよね?」

「ああ、七海の宇宙船は大マゼラン星雲までの16万光年を2ヵ月で移動できるんだ」

七海がMM378に帰った前の日、私は七海の操縦する宇宙船に乗ったことを思い出した。穂高連峰の前穂高岳を登って宇宙船を取りに行ったのだ。昨日の事のように覚えている。

「私も宇宙船に乗ってみたいです。水元さん、宇宙船に乗るなんて凄い経験ですよ。それも七海ちゃんと二人きりなんて羨ましいです」

「そうそう、七海との同居生活はどうだったんだ? 七海がMM378に旅立つ直前だったよな」

 

 私は佐山さやかと七海の同居中の話を詳しく聞いていなかった。直後に七海がMM378に帰った為だ。

「楽しかったです。美味しいご飯食べに行ったり、居酒屋に行ったり、カラオケにも行きました。温泉旅行や、七海ちゃんの希望で縄文時代の遺跡に行ったり、遠出もしました。毎日、帰れば七海ちゃんが待ってると思うと嬉しくて仕事も頑張りました。定時に速攻帰りでした」

「結構お金も掛ったんじゃないのか?」

「七海ちゃん全然贅沢しないんです。でも美味しいスイーツやイタリアレストランとかは喜んでました。喜ぶ姿がまたカワイイんです」

「七海とのデートはリーズナブルなんだよな」

「はい、七海ちゃん牛丼とかラーメンが好きで、こっちがいい経験させてもらいました。牛丼って美味しいんですね。私、牛丼は男の人の食べ物だと思ってたんで食べた事なかったんです。お店もなんか入りにくかったですし。今は一人で牛丼屋さん行ってます。生卵かけると美味しいって七海ちゃんに教わりました、本当に美味しいです。吉乃屋のオレンジ色の看板を見ると七海ちゃんのことを思い出して食べたくなるんですよ」

七海に生卵をかけることを教えたのは私だ。佐山さやかはお嬢様学校として有名な女子大を出ている。成城の大きな一軒家に両親と住んでいる。父親は大学教授との噂だ。実際にお嬢様だったようで牛丼とは無縁の世界を歩んできた。

「ラーメンもいろんな種類があるんですね。専門店もいっぱいあって、豚骨、魚介系、ポタージュ系とかあって、背油多めとか、ニンニクとか美味しかったです。私は昔ながらの醤油ラーメンしか食べた事が無いので新鮮でした。七海ちゃん本当に美味しそうに食べてました。『家系』のラーメン屋さんがあると立ち止まって店の中を覗いてました」

七海がラーメンや牛丼を笑顔で食べてる姿を思い出して切ない気持ちになった。七海との楽しい時間、何でもない日常が幸せだった。

「それと七海ちゃん、幽霊とか怖い話が苦手で、怖い話をしたら怖がっちゃって、その夜は一緒の布団で寝たんです。七海ちゃん、MM378では軍人だったんですよね? それなのに『さやかお姉ちゃん、怖いよ~』って言って私の布団に入って来たんです。本当にカワイかった・・・・・・」

七海が幽霊を怖がるとは意外だった。おそらく七海は人類で最強の戦闘力を持っている。

「七海は10万人に一人というポテンシャルを持った軍人だったんだ」

「だから喧嘩も強いんですね、超能力みたいなので怖い人達をやっつけちゃたし」

「多分それは『ポング』だ。脳波の攻撃だよ。七海は宇宙人だからな」

「宇宙人とか、地球人とかそんなのどうでものいいんです! 七海ちゃんは七海ちゃんなんです!」

私も七海が宇宙人でも地球人でもどうでも良かった。

「七海ちゃんは毎日、「タケルは何してるんだろう」、「タケルは元気なのかな」って言ってました。正直言って水元さんが羨ましかったです、めちゃくちゃ嫉妬しました。その辺の野良猫に『タケル』って名前付けて毎日イジメたいくらいでした。でも七海ちゃん本当に水元さんの事、大好きなんですよ」

「まあ、長く一緒にいたからなあ、それだけだよ」

私は佐山さやかに気を使ったつもりだった。

「でも水元さんは凄いと思います。七海ちゃん、最初に会った時はホームレスの汚いおじさんだったんですよね? 困ってたから一緒に住んであげたなんて、水元さん、優しいです」

その話はちょっと違う。汚いおっさんだった七海が、美島七海に変身したから一緒に住んだのだ。汚いおっさんのままだったら絶対に部屋に上げてなかった。

「懐かしなあ。もう一年半も前のことだ」

「とにかく七海ちゃんの為に出来ることがあったら何でもいいからしたいんです、七海ちゃんに会いたいです。七海ちゃんと一緒に過ごした一カ月は本当に楽しくて幸せでした。あんなに幸せだったのは生まれて初めてです」

「でも16万光年だぞ」

「MZ会に相談できないんですか? MZ会の人達は宇宙船を持ってるんですよね? 相談しない手はないですよ! 今日はその話がしたかったんです。MZ会の連絡先を教えて下さい、私が交渉します!」

女性は一旦肝が据わると強い。私は七海がMM378に帰った後、MZ会とは連絡を取っていなかった。関わるのが恐ろしかったのだ。部屋にはB.B.クイーンズの『おどるポンポコリン』の伴奏がリピートして流れていた。しかし『ピーヒャラピーヒャラ』の気分ではなかった。


 私はMZ会の広報部に電話をかけた。

「唐沢です、お久しぶりです。峰岸はMM378に行っています、私で良ければお話しをお伺いします」

「いいのか? 俺はただの地球人だぞ」

「我々は水元さんを仲間だと思っています。峰岸からも、水元さんから連絡があったら力になるように言われています」


 土曜日の朝、大崎広小路交差点の『セブントゥエルブン』の前に黒のセダンが止まった。私と佐山さやかは後部座席に乗り込んだ。

「お久しぶりです、花形です」

助手席の黒いスーツの男は花形だった。黒いスーツにグレーのシャツにブルーのネクタイはMZ会の制服なのだろう。

「七海さんはMM378で活躍されてるようです。私も七海さんを応援しています。何しろ初めて負けた相手ですからね。格闘術も教えてもらいました。七海さんは本当に強かったです、コテンパンにやられましたよ。おかげでいろんな技を覚えました。それに今回の話を聞いて七海さんを尊敬しています。ムスファは凄いですね。私もMM378に行って一緒に戦いたいです」

「七海は無事なのか?」

「そのようです。詳しい話は唐沢さんに聞いてください」

「今日は銃を持っていないのか? まあ俺達に44マグナムは必要ないだろうけど」

佐山さやかがビクンとした。『銃』の話は刺激が強すぎたようだ。

「水元さんもそちらの女性も地球人です。失礼ですが銃は必要ありません」

佐山さやかは緊張した顔で黙っていた。グレーのスーツ姿だった。


【尋問室】

「私は水元さんの同僚の佐山さやかです。七海さんの事を知っています。貴方達のことも聞きました」

佐山さやかはまだ緊張していた。声が上ずっている。

「唐沢さん、俺が話したんだ。でもこの人は信用できる」

私は佐山さやかをフォローした。

「分かりました、信用しましょう。この事は峰岸にも報告します」

「峰岸さんは何をやってるんだ?」

「武器やその他の物資をMM378に運んでいます。あと1ヵ月で到着するでしょう」

「何を運んでるんだ?」

「銃やロケットランチャーです。水や米や味噌汁も運んでいます。兵員も3000名ほど運びます」

「米や味噌汁?」

私は意外に思った。七海が地球の文化をMM378に広めると言っていたが、その一環なのだろうか?

「MM378のレジスタンスや連合政府の兵士達に米や味噌汁が好評のようです。フリーズドライの味噌汁ですが、彼らの御馳走のようです。肉や魚の缶詰も人気みたいです」

「七海が広めてるのか?」

「はい、七海さんは凄いですね、音楽も広まってるようです」

七海は本当にMM378に地球の文化を広めてるようだった。

「戦況はどうなんだ?」

「形勢が逆転しつつあります。レジスタンスと連合政府はよくまとまっています。今は第1政府の首都を目指して進軍しています。七海さんの功績も大きいです。第1政府の軍人もかなりの数が、連合政府に転軍しています」

「凄いな、優勢なのか」

「もし第1政府を倒せばMM378は変わるでしょう。地球の文化ももっと広がります。MM星人が感情と自我を持つかもしれません」

「MM378が変わるのか」

私はMM378には行ったことは無いが、なぜか感慨深かった。

「我々MZ会はMM378との交易を考えています。水や食料とMM378にしかない鉱物の交換です」

「鉱物?」

「反重力装置や宇宙船に必要な『ユモトン』という物質です。地球のウラン235の100倍以上のエネルギーを秘めています。もちろん平和利用が前提です」

「ウランの100倍って・・・・・・」

「ウラン235の1gは石油2000リットル相当のエネルギーを生み出すことができます。ユモトンの中でも『ユモトン411』という物質は強力です。エネルギーはウラン235の『200倍』です。1gで石油40万リットル相当のエネルギーを生み出します。ドラム缶1800本分です。25mプールを満杯にできます。ユモトン411は容易にプラズマエネルギーを作り出すことができます。しかしウラン235同様、非常に不安定な物質なので危険です。核分裂時のエネルギーは計り知れません」

ウラン235は広島型原爆に使用された物質だ。その200倍のエネルギーを持つユモトン411。MM378には恐ろしい物質が存在するようだ。

「まさかMZ会は地球を制覇するつもりじゃないだろうな?」

私は不安を感じた。MM星人の科学力とユモトンとういう物質をもってすれば地球征服も可能なはずだ。

「MZ会は地球に国家を作る目論見です。超科学力を持った平和な国家です。地球に居るMM星人やMZ会の信者を中心とした国家です。もちろん地球人と共存します」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る