第5話 Chapter5 「コチョコチョ」 【地球】

Chapter5 「コチョコチョ」 【地球】


 私と佐山さやかは宿泊施設の部屋に入った。前に七海と監禁された時と同じ部屋だった。今夜は泊まりになった。佐山さやかはレズビアンなので変な間違えは起きないだろう。

「水元さん、私怖いです。宇宙人とか国家とか、頭がついていきません」

「おそらくアメリカの大統領でも知らない事実だ」

「知り過ぎたら危なくないですか? なんか怖いんです」

佐山さやかの言うことはもっともだ。私達とMZ会の繋がりは七海の存在だけだ。

「大丈夫だ。MM星人は基本的には平和主義だ」

「なんか映画の中にいるみたいです。唐沢さんも花形さんも宇宙人なんですよね? 現実とは思えません。怖いです!」

「佐山さん、七海が帰ってきたら何がしたい?」

私は佐山さやかの恐怖心を和らげたかったので話題を変えた。

「そうですねえ・・・・・・やっぱり温泉です。また一緒に温泉に行きたいです。七海ちゃんと温泉に浸かって、その後背中を流してあげるんです。その時に脇腹とか『うなじ』をコチョコチョってするんです。そしたら七海ちゃん、「キャハ、さやかお姉ちゃん、くすぐったいの~ やめてよ~」って言うんです。私はもっとコチョコチョするんです、そしたら七海ちゃんが「キャハハハッ、キャハハハハッ、さやかお姉ちゃん、くすぐったいからもうやめての欲しいの~ キャハハハッ、キャハハハハハッ、もう降参なの~」って言うんです。そして夜は怖い話をいっぱいします。そうしたら七海ちゃんは怖がって私の布団に入ってきます。「さやかお姉ちゃん、怖いよ~」って言って。もう、カワイイんです! そしたら「大丈夫、怖くないよ」って言って七海ちゃんの肩を抱いてあげるんです。朝は早起きして七海ちゃんの寝顔を見ます。七海ちゃんの朝の寝顔、もう、最高なんです! 朝ごはんの時は七海ちゃんのお茶碗にご飯をよそってあげるんです。いっぱいお替りしてもらうんです。そして七海ちゃんの顎やほっぺについた米粒を取ってあげるんです。そしたら七海ちゃんが「さやかお姉ちゃんは優しいの、本当のお姉ちゃんになって欲しいの」って言うんです。もう、凄く嬉しいんです。その後は朝風呂で一緒に温泉に入るんです。七海ちゃんの背中流しながら、また、コチョコチョするんです。ああ~ん、もう想像しただけで胸がキュキュンします、呼吸が荒くなってしまいます、もう何を言わせるんですかぁ~、変な事聞かないで下さいよ! 恥ずかしいじゃないですかぁ~! 水元さんのバカ~ん。七海ちゃんにコチョコチョしたいです」

佐山さやかは一瞬で元気になった。凄くわかりやすい。七海の真似も良く似ていた。妄想力は中学生の男子以上だ。

「俺は七海と美味しい物を食べに行きたいよ。初めての美味しいものを食べた時の七海の反応は面白い。鰻重やすき焼きや寿司を食べた時の七海の反応は凄かったなあ。でもやっぱり牛丼かな、ラーメンもいいな。七海は牛丼やラーメンを食べてる時、本当に幸せそうな顔をするんだよ。龍王軒のジャンボ肉シュウマイも大好物なんだよな。七海は今、MM378で何を食べてるんだろう・・・・・・」

「龍王軒、七海ちゃんと一緒に何回か行きました。店長さんがいい人で、全部タダにしてくれました。ジャンボ肉シュウマイ美味しかったです。それと七海ちゃんが銀座の超高級なお寿司屋さんに連れてってくれました。幾らするんだろうって気になったんですが、そこの大将が七海ちゃんの大大大ファンで、もの凄く安くしてくれたんです。本当に美味しいお寿司でした。大将がニコニコしながらいっぱいサービスしてくれました。七海ちゃんの人気は凄いです。後で調べたら大物芸能人や財界人や政治家が来るようなお店でした。それに七海ちゃんが龍王軒で覚えたチャーハンや炒め物を作ってくれたんですよ。あんかけが凄く美味しかったです。ああ~ん、また七海ちゃんと一緒に住みたいです。水元さんは一年も七海ちゃんと一緒だったんですよね? ズルいです。私なんて一ヵ月ですよ!」

「七海のオムレツ、食べたいなあ」

「私もです! 七海ちゃんの作った朝食、忘れられないです。幸せでした。水元さん、七海ちゃんが帰って来たらまた一緒に住ませて下さい」

「帰ってきて欲しいよなぁ」

「はい、帰って来て欲しいです」

七海はMM378で何をしているのだろう。ショットガンを持って戦っているのだろうか。とにかく無事でいて欲しい。


【翌日】

「峰岸と連絡がつきました。最新型の通信装置は4時間で情報を送れます。水元さんと佐山さんには七海さんが地球に戻った時のサポートをお願いしたいとのことです」

「七海が戻ってくるのか?」

「第1政府が倒れたらの話です。七海さんはレジスタンスや連合政府軍になくてはならない存在のようです」

「唐沢さん、七海ちゃんはいつ帰ってくるの? ねえ、私達がMM378に行くことはできないの? 宇宙船はあるんですよね?」

佐山さやかは本気のようだ。

「それは難しいです。MM378の環境で地球人が生きるのは大変です。一日の気温の寒暖差は200度です。摂氏150度で生きられますか? 気圧は3気圧です。酸素濃度も地球の70%です」

「宇宙服や酸素ボンベがあれば可能じゃないのか?」

私は思い付きで言ってみた。

「行って何をするのですか? 星中が戦争しいてるんですよ? 戦えるんですか!?」

唐沢の言葉は厳しかった。私は何も答えられなかった。


 私は佐山さやかを連れて射撃場に行った。花形が同行した。私がベレッタ92を射撃する間、佐山さやかはイヤーマフの上から耳を押さえてじっと私の射撃を見ていた。

「撃ってみるか? 七海をサポートするなら射撃を覚えておいた方がいい」

「怖いけどやってみます」

私は一通り銃の扱い方を佐山さやかにレクチャーした。佐山さやかは腕を真っ直ぐに伸ばしてベレッタを構えている。両足をぴったりつけて体は棒のように真っ直ぐだ。スカートから出た足が震えてるように見える。引き金をゆっくり引いて撃った。銃声と同時に銃が反動で勢いよく跳ね上がる。

「キャア!」

佐山さやかは目をつぶってしゃがみこんだ。

薬莢がコンクリートの床に落ちて『キーン』と高い音をたてた。

「無理しない方がいいです」

花形が佐山さやかの手を掴んで立ちあがらせた。

「大丈夫です、何事も慣れだと思います。思ったより反動が強いのでビックリしました」

「見本を見せます。まずは構え方から真似して下さい、反動には慣れます」

花形がコルトガバメントを連射した。足は肩幅よりやや広めに開き、左足を少し前に出している。弾は全て的の中央部に当たった。佐山さやかは花形の構えを真似して1マガジンの15発を撃ち切った。10秒に1発のペースだった。構え方は良くなっているが、弾は的にまったく当たっていない。

「手首が痛いです」

佐山さやかはハンカチを右の手首にきつく巻くと、マガジンに9mm弾を詰め始めた。佐山さやかは思ったより根性があった。

「花形さん、当たるように指導してください。お願いします」

花形は佐山さやかに丁寧に指導した。佐山さやかは構え方が変わっていた。ベレッタの引き金を素早く引いた。弾は的の端に当たった。

「もう少し左上です。銃口を上にずらして、そのあと横にずらして下さい。照星の頂点と照門の両端の高さが同じになるようにして下さい。その状態を維持しながら照星の赤い丸を的の真ん中に合わせて下さい。呼吸を止めてゆっくり引き金を引いてください」

花形が佐山さやかの後ろに立って指導した。佐山さやかは10発目で的の真ん中近くに当てることができた。

「おおっ、凄い、当たりましたよ!」

花形が喜んでいる。佐山さやかは真剣な表情のまま残りの5発を撃った。弾は真ん中ではないが的に当たった。

「花形さん、ありがとうございました、貴重な体験になりました。水元さん、本物の銃を撃てるなんて、MZ会は凄い組織です」

佐山さやかが驚いている。

「ああ、こんな非合法なことが出来るのはMZ会の組織の凄さだ、私も佐山さんもすでに法律的な罪を犯している。『発射罪』だ。捕まれば懲役刑だよ」

「かまいません。もし第1政府が地球に攻めてきたら私は戦います。七海ちゃんの護衛もします。その為の訓練です」

佐山さやかはその後もベレッタで射撃練習を続けた。8マガジンを撃った。120発だ。女は肝が座ると本当に強い。

「花形さん、また来ます。次は45口径とショットガンを撃ちます。指導して下さい」

佐山さやかの目がギラギラしている。意外と戦闘本能が強いのかもしれない。


 「水元さん、対ギャンゴハンドガンを今から撃ちます。七海さんはショットガンとこれを使っているそうです」

花形は物凄くゴツい銃を構えている。重機関銃を小さくしたような形だ。ボックス型弾倉が横についている。銃身は長くて太い。

『ドン!!!』

大きな音がして、衝撃派が顔に当たってビリビリした。

「うわっ、凄いなあ」

私は呆気にとられた。拳銃の音ではなかった。

「12.7mmNATO弾を改良したものです。威力をアップしてます。私でも反動を制御できません。地球人が撃ったら手首を捻挫するか、下手すれば骨折か肩が外れます」

「当たり前だろ、対物ライフルの弾丸だ、ハンドガンなんて無理だ」

12.7mm弾は生物を撃つ弾丸ではない。対物弾だ。第2次世界大戦ではアメリカ軍の戦闘機が搭載していた機関銃の弾丸だ。敵の飛行機を墜とす為に使用されたのだ。日本軍機とドイツ軍機はこの弾でバタバタと墜とされた。

「七海さんはこの銃でギャンゴと戦ってるそうです」

七海の戦う姿が想像できない。頭に浮かぶのは笑顔や、はにかんだ表情の七海だ。寝顔も可愛かった。毎日見ていた。七海は激しい戦いの中で私の事など忘れてしまっているかもしれない。七海、戦わなくていい。七海と平和な生活をしたい。また朝食を作ってくれ。七海の作ったオムレツが食べたいんだ。七海の淹れたコーヒーが飲みたいんだ。隣で笑っていてくれ。



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