ワタシは世界で一番キレイ

八月一日茜香

ワタシは世界で一番キレイ

誰に罵られても、誰に非難されようとも、なんと言われても。ワタシは、世界で一番、キレイよ。

春風に夏の気配が入り交じった風。それに身を委ねながら、お月様が三回昇る前に降った雨水を飲む。前の時に比べて、やわらかなお日様の光を、ナカマと共に浴びる。ゆらゆら、ゆらゆら。気ままに揺れる。お日様が一層紅くなる時分。ナカマの一人が

「あぁ。あの時間になっちまうよ」

怯え、不安、諦め、悲しみ。色んな負の念がその一言に詰まっている。それの念は周りにも伝播して

「ヤダヤダ。どうせアタシらは、毒持ちだよ」

「怖いものだよ」

「そーんなに、オレらが嫌いかね」

ざわざわと、嫌な雰囲気がワタシたちの間に流れる。心なしか、色褪せている気もする。ワタシも、周りに引っ張られて、憂鬱になりそう。だけど、ふっと、息を吐いて、キッと前を見据え

「しゃんとしなさい」

誰に聞かせるでもなく、自分に言い聞かせるように、呟いた言葉。けど、静まり返っていた場に、思ったよりもは響く

「……えっ?」

ナカマの一人が、戸惑った声を出す。ワタシはそれに目もくれず

「前だけを見て。ワタシが、世界で一番、キレイよ」

きゃらきゃらと、無邪気で、無垢で、そして恐ろしい声が聞こえてきた。その子らは、ワタシたちの前を通るなり

「うわぁ〜、見ろよ、アレ」

「毒持ちの花だー!」

「えっと、彼岸花。だよね?」

「そうだぜ!」

「きゃーこわーい!」

と言って、立ち去っていく。投げかけられた、言葉は、気にしない。誰に、何を言われたって、ワタシを傷つけることはできない。少しだけ、やっぱり、悲しいけど。でも、それでも、ワタシは前を向く。すると

「……きれい」

ポツリと呟かれた言葉。その言葉一つ。それだけで、ワタシは、なんだか無いはずの心臓が暖かくなった気がした。その子は、足早に立ち去ってしまった。ワタシは、伝える口も、言葉もないけど、それでも、胸を張って凛と立つの。そよそよと風も祝福する中、お決まりのセリフを言う

「あったりまえよ!ワタシは世界で一番、キレイなんだから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワタシは世界で一番キレイ 八月一日茜香 @yumemorinokitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画