第3話 歌姫の学校での出来事

 夕美先輩と会って歩いて十分後。


 私達は学校の正門に潜ろうとしているところだ。


 なぜか、視線がさっきよりも集まっている気がしている。


 ……あ、そうか。


 私は自分の髪を見る。


 私の銀色の髪が珍しくて、変で見ているのか……。やっぱり、この学校でも……。


 私は昔のことを思い出して、悲しくなり俯いた。


「あれ?どうしたの、春っち?」


 急に俯いた私に違和感を覚えたのか、夕美先輩は尋ねてきた。


「い、いえ。何でもありません……」


 私は夕美先輩に知られたくなくて、嘘を吐く。


 夕美先輩がこのことを知ったら、私から離れていくはずだ。自分もイジメをうけると思って。……みたいに。


 私はあの子のことを思いだす。すると、心がチクチクと痛んできた。


「夕美先輩、春は——」


 言わないで……。


 私は若葉にそう目で訴えた。だが……。


「春は髪色のことで昔、イジメを受けていたんです。変な色だって言われて」


 若葉……!


 私は絶望した。若葉にではない。夕美先輩が私に離れていくとわかって……。


 もう、嫌……。この学校でもまた……。


 私は俯いて、夕美先輩の顔を見ないようにした。当然、嫌な目で見られると思って。


「……なんだ。そんな事で俯いてたの?」


 え⁉︎


 私はびっくりして、顔を上げる。


「ゆ、夕美先輩は変だとは、思わないんで、すか?」


「うん。綺麗だと思ってたよ。顔も髪も。太陽の日の光を浴びてキラキラ光ってて素敵だなって、最初から思ってたもん」


 夕美先輩は笑顔で言った。


 綺麗ということはわからないけど……。夕美先輩は私のことを受け入れてくれた(全てではないけれど)。


 私はそう思うと、嬉しくて泣きそうになった。


 だけど、ポロポロと落ちていき、次第に止まらなくなってきた。


 夕美先輩はそんな私を見てギョッとした。


「春っち、大丈夫⁉︎どこか痛いの?」

「だ、大丈、夫、です。う、嬉しくて、ゆ、夕美先輩、が、私から、離れていかな、くて……。そ、そして、私を、うけいれて、く、くれ、ることが」


 そう言うと、夕美先輩はおかしそうに笑った。


「そりゃ、受け入れるよ。春っちは悪いことしてないんだし、さ。それに、今はいじめられないと思うよ」


「え?それってどう言う、ことですか?」


 私は涙を拭って聞く。


「見ている人たちは私達を見てるの。つまり、あたしと若っちと春っちを入れてってこと。若っちとあたしって、結構知名度あるからそんなアタシたちと一緒にいる春っちのことが気になってるの」

「そうだったんですか……」


 私はほっとする。そして、自意識過剰だったことに恥ずかしかった。


 この髪色が変だとは思われなかったんだ……。


 私はこの学校の人達なら私を受け入れてくれそうで、少し嬉しく思う。


「まぁ、それだけじゃないけどね……」


 夕美先輩はぼそっと呟く。


「夕美先輩、何か言いましたか?」


 私は何を言っていたのかわからず、先輩に尋ねる。


「ううん。何でもない」

「そう、ですか」


 私はスッキリしないけど、これ以上尋ねない。


「おい、そろそろ教室に向かうぞ」


 そう言って、スタスタと若葉は校舎に入っていく。


「ま、待って‼︎」


 私は若葉の後を走って追っていく。


 私は若葉を見失ってはいけないと、懸命に走るがもちろん家にずっと居たせいで、体力も落ちているわけで……。


 なんてことは、今回はなんと無い‼︎


 歌には体力が必要であり、夜は時々近くにある坂で走り込みをしたり、家で一応筋トレしたりと体力をつけていた。


 運動に関しては、色々と自信が——ふへボッ‼︎


 私は足元を見ていなかったせいで、段差があることに気づかず、盛大に転けた。


 私はむくっと起き上がり、ぶつけた額をさする。


 ヒリヒリしてめちゃくちゃ痛い。


「うぅ……」


 私の後ろから来ていた夕美先輩はふふっと笑う。


「春っち、盛大に転けたね」

「はい。あんなに転けるとは思いませんでした……」


 そんな時、足音が聞こえた。


 私は聞こえた方を見る。


 近づいてきたのは若葉だった。


「わ、若葉!私はてっきり、若葉は見捨てて先に教室に行ってたと思ったのに‼︎」


 するとまた、夕美先輩は笑い出す。


「春っち、若っちは春っちのこと見捨てるわけがないじゃん」

「へ?なんでですか?」

「え?若っちって、シスコンでしょ?いっつも春っちのこと話してたもんね!」


 え?そうだったの……⁇


 私はバッと若葉の方を見る。


 若葉はすっと、目を逸らす。頬を赤くして……。


「って、まさか気づいてなかったの⁉︎」


 夕美先輩はまた、また笑い出す。


「ゆ、夕美先輩‼︎」


 若葉は恥ずかしさが倍増して、夕美先輩が笑うのを止めようとする。


「ご、ごめん。ごめん。春っちが気付いてないのが、面白くって」


 夕美先輩はあははっと笑いながら言う。


「たく……。春、行くぞ」


 若葉はすっと私の前に手を差し出す。

 私はその手を受け取る。


「うん。わかった」

「やっぱり、若葉はシスコンだね。春っちの前では平然と装っているけどね」


 夕美先輩の顔はニヤニヤしている。


「うるさい‼︎……いや、うるさいです」


 若葉は顔を赤くしている。

 そして、私はふふっと笑う。


「どうしたんだ?」


 若葉は私が笑ったのが不思議だったらしく、聞いてくる。


「いや、これから学校生活が楽しくなりそうって思っただけ」


 私は笑顔で答える。


「そうか」


 若葉は優しい笑顔で私の頭を撫でる。


「ストップ‼︎シスコンの若っち&アンドなんか今あたしの中でブラコンになった春っち‼︎」


 え⁉︎私、ブラコンだった、の?そして、いつの間にブラコン疑惑が……⁉︎


 私と若葉は頬赤く染める。


「もう、すぐ二人の世界を作っちゃうじゃん‼︎」


 夕美先輩は仲間外れにされたのが嫌だったのか、少し怒っている。


「ほんっと、そんな二人にほうこ〜く。そろそろ、教室に入らないと遅刻だよ!」


 え⁉︎本当?


 周りを見ると、私達以外誰もいない。


 これ、ガチでまずいやつじゃ……。


「ま、まずいぞ、春。走れるか⁉︎」

「う、うん」

「行くぞ」


 若葉の合図で私と若葉は走り出す。


「行ってらっしゃ〜い」

「って、夕美先輩も行かないと遅刻ですよ」


 若葉は夕美先輩に忠告した。


「って、そうじゃん‼︎」


 遅刻しそうな私達は校舎に向かって走っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る