第23話
ラブホテルには朝まで滞在して、起きてからは樹希さんが買ってきてくれた服を着てホテルを出た。
せっかくだから途中で見かけた神社に寄って初詣を済ませた後で、ふたりの住む家までは手を繋いで帰った。
家に着いてからは、お互い疲れてたから少し寝て、
「…好きな食べものは?」
「んー……優奈ちゃん」
「ぁ、ん……やだ、もう。わたしは食べられないよ…?それに、今はえっちしないって…さっき約束したのに」
「ごめんごめん。かわいくて、つい」
目が覚めたら、ベッドの上で横たわって軽く抱き合いながら色んなことを質問し合った。
「優奈ちゃんの好きな食べ物は?」
「うぅん……おすし」
「ははっ、かわいーね。逆に嫌いなのは?」
「……ピーマン…」
「子供みたいでかわい〜」
「い、言わないで……気にしてるの。…そういう樹希さんは?嫌いな食べ物ある?」
「辛いのと、苦いの。ゴーヤは特にきらい」
「んふふ、樹希さんも…子供みたいでかわいいねぇ〜」
相手の頬を両手で包んで潰しながら、挑発するように鼻先を擦り合わせたら、本当に子供みたいにムッとした表情へと変わる。
それがまた可愛くて、わたしの方から軽く口づける。
顔が離れると、真っ先に見えたのは僅かに欲情して潤んだ瞳だった。
「……触っていい?」
「質問してる間は、だめ…」
「え〜……優奈ちゃんから誘ってきたのに?」
「さ、誘ってないよ。ちゅーしただけだもん…」
「それがアリなら、ここにもキスしていいよね?」
「んっ……や、だめ…」
むっつりな樹希さんの手が■■に伸びて、逃げるために背を向けたのに、今度は後ろから包むように揉んできた。
「うぅ〜……だめだってば…ぁ」
「ちゃんと答えるから。おねがい…触りながら質問タイムさせて」
「ぅ、ん…っあんまり……きもちく、しないで…?話せなく、なるから…」
「わかった。可愛すぎてヤバいけど、ちゃんと我慢する」
「っん……あり、がと…」
「じゃあ、ほら。続けて?なに聞きたい?なんでも答えるよ」
服の上からクリクリいじられた状態で集中なんてできるわけもないけど、なんとか話を続ける。
「バイト…って、んぅ……っなに、してる…の?」
「んー……接客」
「なんの…?」
「……接客は、接客」
濁した回答に、とてつもなく怪しい雰囲気が漂うものの、あんまり聞いてほしくなさそうだからそれ以上の詮索はやめておいた。
じゃあ次は何を聞こうかな…って考えていたら、我慢できなくなったのかついに服の中にまで手が入ってくる。
「やぅ…っあ、だめ……んっ…」
「そんなかわいい反応されて、我慢できないって」
そう言ってもらえるのは、嬉しい…けど。これじゃ全然、樹希さんについて知れる機会なのに話が進められない。
「……わたしの体だけ、好きなの…?」
こんな時でもおっ■いとか、えっちばっかで……悲しくなって拗ねた声を出したら、慌てた動作で服の中から手を抜かれた。
そしてすぐに、頭を忙しなく撫でて「ごめん、全部好き」と、分かりやすいご機嫌取りをされる。
わたしもわたしで、そんな風に言われちゃうと強く出られなくて、結果的に許してしまった。
「さ、次の質問どーぞ。もう何でも答えます」
「……今ある女の子の連絡先」
「あー……それは、どう答えれば…」
「何人?」
「んー…えぇっとー…」
その代わり、お返しのつもりで答えにくいであろう質問をすれば、案の定樹希さんは言葉を詰まらせていた。
あからさまに視線を逸らすから、腹が立ってさらに困ることを聞いてやろう…と口を開く。
「…セフレの数」
「ゼロです」
そしたら、まさかの即答された。
「え……ほ、ほんとに…?」
「うん。まじ」
「答えられないくらい、女の子の連絡先持ってるのに?」
「うん。…てか、セフレなんていたことないよ」
「え、で、でも…慰めたりするのに、えっちするんでしょ?」
「確かにそうだけど……みんな友達。セフレって思ったことない」
「あ……そういう…」
認識の違いだと知って、驚きも無くなる。…樹希さんって、どんな女の子に対しても平等な感じだもんね。
ってことは……本人が思ってないだけで、セフレ関係になってる可能性は大いにある。いやむしろその可能性のほうが高い。
…わたしのことも、ただの“友達”って思ってるのかな。
聞かなきゃよかった、とさっそく後悔した。
「他になに聞きたい?」
「……誕生日…」
もう女の子関係の質問はやめようと心に決めて、無難な質問だけをすることにした。
「1月15日だよ」
「…その日の予定は?」
「あー……夜から、次の日の朝まで埋まってます」
「だよね…」
だけどここでもまた女の子の気配を感じて、質問タイム自体をやむなく終了させた。これ以上は心が抉られすぎてしんどいから。
にしても、誕生日1月なんだ……と、一緒には過ごせないものの、けっこう間近に迫ってることは確認できて、それなら別日でもいいから何かしたいな…なんてぼんやり考える。
「今…欲しいものは?」
「あれ。質問タイム終わりなんじゃないの」
「最後にこれだけ……おねがい。教えてほしい…」
「もちろん、いーよ。うーん……そうだなぁ」
快く頷いてくれた樹希さんは少し悩んだ後で、不意にわたしの右手首を持った。
「…お揃いの、指輪」
そう言って、身に着けていた薬指の銀色を指先で撫でる。
「いつまで元カレとのやつ、つけてんの」
「あ……ごめん…なさい。外すの忘れてて……あとほんとお気に入りで…」
「嫌すぎるから、明日にでも買いに行こう?お金はふたりで出そ。半分こね」
「それだと、誕生日プレゼントの意味がないんだけど…」
「あ。プレゼント買うために聞いてくれたの?」
「うん…」
「それなら……旅行デートがいい」
「旅行デート?」
「……温泉行って、ふたりでゆっくり過ごそうよ。優奈ちゃんとの時間が欲しい」
最終的に物じゃないものをねだった彼女は、甘えん坊全開で後ろからひっついて、肩に額を乗せていた。
肩越しに頭を撫でながら、可愛くて微笑む。
たとえセフレとさえ思われてなくても、今はこうやって甘えてくれるだけで嬉しいな……って、思っちゃうわたしだから、彼女との関係を維持させられるのかもしれない。そうポジティブに捉えることにした。
この後、樹希さんは珍しくえっちしないで「ひとりで出かける」とだけ伝えて家を出て行った。
そして、夜になって帰ってきたと思ったら…
「そ、それ……なに?」
「ん?昨日、体で払ってもらったから……約束の洋服たち」
ハイブランドの洋服をいくつか買ってきた。
社会人の私でも手を付けるか迷うくらい高いブランドもののスカートやコートに、恐ろしくなって首を横に振る。
「そんな高いの……受け取れないよ…それに服はもう昨日、買ってもらってるし…」
「昨日のあれは違う。他のお店やってなかったから買っただけ。こっちが本命」
「で、でも…」
「てかこれ、優奈ちゃんの元カレに殴られて入ったお金で買ったやつだから。実質、優奈ちゃんのものだよ」
喜んでいいのかもよく分からない理屈で丸め込まれて、そういえばわたしも少し前に示談金が振り込まれてたことを思い出した。
けっこうな額だったから……なるほど、それなら買えちゃうか、と納得してしまう。
「ありがとう……うれしい…」
素直に受け取って気の緩んだ顔で笑いかけたら、樹希さんの瞳が優しく揺らいだ。
「…私も、質問タイムしていい?」
「?うん…もちろん」
「じゃ、ベッド行こっか」
「へ?」
穏やかな表情をしてると思ったら今度はにっこり笑って、寝室のベッドまで腕を引かれて連れられる。
質問するのに、わざわざ移動する必要あるのかな…?なんて疑問に思ってたけど、流されるままにキスをして、服を脱がされて……
「これ…きもちいい?」
「っぅう……ふ、ぁ…っきも、ちい…」
「こっちと、これ…どっちの動きが好き?」
「うぁ、あ……っわかん、な…」
「ちゃんと教えて?どっちがいい?」
「〜っ……さ、いしょの…やつ、すき…っ」
純粋な気持ちで質問に答えようと思ってた自分が恥ずかしくなるくらい、いやらしい質問攻めばかりされた。
結局いつもこうなっちゃうの……体だけじゃないって嘘なのかな?ってちょっと不安にはなるものの、気持よすぎて思考は溶ける。
それに、行為中の樹希さんはいつにも増して甘々で、
「優奈……好き。かわいい…もっと声聞かせて」
「っぅあ、はぅう…はず、かしい……っ」
「あぁー…ほんとかわいい。かわいいね、これきもちいいね?優奈…」
これはこれで悪くない……というか、普通に幸せと満たされてしまう愚かな思考回路で、なんだかんだ満足感を得ていた。
思えば洋服も買ってくれて、旅行費も半分出してくれるって言ってもらえたから、けっこう尽くしてもらえてるし……ちょっと女癖が悪いくらいで、へこたれちゃいけないよね。
悪いところばかりじゃなくて、良いところも見なくちゃ。やってもらえるのが当たり前じゃないもん。
「樹希さん、すき…」
「うん……私もだよ。優奈ちゃん」
こうやって好意を伝えれば応えてくれるし……何も悪いとこないかも。
うん、大丈夫。やっていける。
持ち前の何でも受け入れる性格を活かして、気を持ち直した。今まで悩んでたのが嘘みたいに、心を軽くする。
そのおかげで仲良く過ごせるようにもなって、樹希さんの誕生日まではあっという間に過ぎ去った。
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