第21話



























 無事に仕事も片付けて、連休に入ってからひとりで迎えた大晦日。


 樹希さんも帰ってこないから不貞腐れて、ヤケ酒でもしながらカウントダウンを迎えよう…と思っていたところに、友達からのお誘い電話が来た。


「…カウントダウンライブ?」

『うん。知り合いがDJやっててさ、けっこう大きい箱でやるんだけど……優奈、彼氏と別れたって言ってたじゃん?だから暇してるかな…って。どうかな?』


 せっかくの親切心を断るわけもなく、ふたつ返事で頷いてお酒を飲むのはやめて出かける準備を始めた。

 どうやらクラブのようなところらしくて、あんまり行ったことのない場所だから、行く前から気後れしつつ……久々のお出かけってこともあって気分転換も兼ねていつもよりしっかりめにお化粧をした。

 だけどあんまり露出が多いのは避けよう…と、こんな時でも樹希さんが嫌がりそうなことを無意識のうちに避けて服を選ぶ。

 スカートはやめて、黒のレザーショートパンツ黒タイツにして、地味すぎても浮いちゃうかな…って、上は丈の短い胸元の空いたニットにした。

 髪も巻いて、鞄も持って、最後に靴も黒のレザーブーツで統一して、待ち合わせの時間に合わせて家を出た。

 この格好……「ギャルが好き」って元カレが言うから買ってたけど、着るの二回目とかかも。

 普段しない、どちらかというと清楚ではない服装に自分で選んだのに慣れなくてソワソワしながらも、電車に乗り込んで都内の方へと向かう。


「あっ、優奈!いたいた」


 広い駅内でなんとか友達と合流できて、友達にも「そういう格好珍しいね」と褒められた。


「あ。さては……新しい彼氏作るために気合い入れてきたな〜?」

「はは……まぁ、そんな感じ…」


 否定してもややこしいから適当に話を合わせて、さっそくライブがあるというクラブへ移動する。

 チケットは、友達が知り合い価格で仕入れてくれたらしく、その代金だけ先に手渡しておいた。…忘れちゃうと、良くないもんね。

 友達の後に続いて、入り口で身分証明書なんかを見せて中に案内される。

 建物内は思ってたより広くて、あと何より音が大きすぎて面食らった。暗い中、ミラーボールや様々な光もギラついていて、とてもじゃないけど慣れそうもない空間に気圧されて、来て早々にちょっと後悔する。


「ここでお酒頼んだりするの!まず一杯頼んでかない?」

「あ…うん。わかった」


 音楽がガンガンにかかってるからか、ほぼ怒鳴るみたいな声量で話しかけられたのに対して、こちらは怖気づいて小さな声で頷いた。

 友達はカウンターの向こう側に立つ男の人にお酒を注文していて、その間に周りをキョロキョロと見回した。

 わぁ、ほんとすごい人だかり……なんて、呑気に思っていたら。


「へ…」


 見知った顔とバッチリ目が合って、息を止めた。


 ちょうど女の子と飲んでたらしい樹希さんも、少し離れたところで絶句していて……咄嗟に顔を背けて覆い隠す。

 え。待って……ど、どうしてこんなところにいるの?

 相手からしてもきっと同じ気持ちで、わたしが困惑しまくってその場で固まっていたら、


「……優奈ちゃん…?」


 後ろから、信じられないといった声と一緒に肩を叩かれた。


「っひ……人違い、です」

「…へぇ。そっか」


 自分でもアホだと思う嘘をついたら、そんなんで誤魔化せるわけもなく……スルリとお腹に片手を回されて抱き寄せられる。


「じゃあおねーさん、私と一緒に…抜け出しませんか」


 わたしの嘘に合わせて、正攻法でナンパしてきた樹希さんに、抵抗する余談も許さずズルズル片手だけで後ろから抱きしめられたままで引きずられて、入り口付近へと連れられた。

 ロッカーが並ぶ場所まで着いたらようやく腕の中から解放されて、樹希さんは持っていたお酒を飲んだ後でゴミ箱に捨てて、ロッカーに肘をついてわたしを見下ろした。


「で?……なんでこんなとこにいるのかな。優奈ちゃん」


 笑っているのに口調は冷たくて、動揺しまくりで目を泳がせる。樹希さんの顔を、まともに見られなかった。


「それに……こんなお洒落して」


 巻いた髪の束をひとつ持って、彼女はその瞳に静かな怒りを滲ませていた。

 視線を反らして斜め下を見ながら、今にも怒られそうな状況だというのに、不覚にも近い距離に体温があることにドキドキしてしまう。


「男でも漁りにきた?」

「や、う……ちがい、ます…」

「じゃあ、なに?なんで来たの、こんなとこ」

「あ……い、樹希さんも、なんでここにいるの?」


 わたしだけ責められてるのもおかしい気がして、ちょっと強気な姿勢で質問してみれば、はぐらかされた事にまた腹を立てたのか彼女の瞳がさらに冷えたものへと変わった。

 怖くなって、口を紡ぐ。

 その唇に向かって手を伸ばして、親指の腹でそっと撫でた樹希さんは、ゆっくり顔を近付けてきた。


「私以上にイイ相手は…見つかりましたか、おねーさん」


 そう言って、にっこり笑う。

 悔しいことに、彼女は自分の魅力をしっかり自覚しているらしい。

 自分以上にわたしを好きにさせる男はいないという自信と自負を持って質問をされて、相手の思惑通り図星すぎて何も言い返せずに俯いた。


「いたんだ?」


 追加で聞かれた言葉には、黙って首を横に振る。


「こんなとこで引っかけた男と飲んで、それで……どうするつもりだったの」


 いつもいつもそうやって、自分のことは棚に上げてわたしばっかり、束縛して責めるようなことしてくるけど……


「……樹希さん、だって…」

「ん?」

「わたし以外の女の子と、飲んでたじゃん…」


 拗ねた気持ちをそのまま口に出して相手の服をギュッと指の先でつまんだら、どうしてか相手の鼻から微笑む吐息が漏れた。


「…嫉妬してるの?」


 ここまで来て、「してない」なんて言えるメンタルはなくて、小さく頷く。


「やば……めっちゃかわいいんだけど」


 距離を詰めてきた樹希さんの手が腰に回って、周りに人が居るのも構わず抱き寄せられた。

 頭を撫でながら、いつもみたく体を触れないからか、代わりに何度もこめかみや耳の後ろあたりに浅く口づけしてくれていた。

 聞きたいこととか、言いたい不満や思いはたくさんあるのに、腕に包まれた体温ひとつで絆されてしまう。

 いつもの、良くない流れだって……分かってるはずなのに。


「…ほんとに、このまま抜け出しちゃおっか」

「え……でも…友達が…」

「ナンパされてる時に友達の心配なんて……ずいぶん余裕だね。おねーさん」


 顎を支え持った指が顔を上げさせて、頬に軽く唇が当たる。


「…友達と過ごすか、私と帰るか……選んで」


 優しさの中に強引さがある声色が耳元で静かに響いて、それだけで心臓も下腹部もキュンと疼いた。

 ここで流されて、また体を許してしまったら……またいつもと同じことになる。関係性も曖昧なまま、ズルズルと体だけの関係が続いちゃう。

 だから、ここはちゃんと断って、怒らなきゃって…思うのに。


「おねがい……優奈ちゃん。帰ろう…?」


 肩に頭を乗せて、どびきりの甘えた切ない声を出されたら、もう……だめだった。


「……わたしも、樹希さんといたい…よ」


 行く先が泥沼と分かっていても、相手の手を取ってしまった。

 顔を上げてわたしを見た樹希さんは、今にもキスしたそうな物欲しい表情をグッと堪えて、手を引いてその場から連れ去った。

 家に帰る時間すらもどかしくて、お互い何も言わずとも勝手にラブホ街へと歩みを進める。


「優奈ちゃん…」


 部屋に着いてすぐ、ベッドの上へと押し倒されて、余裕なく覆い被さられた。

 腰を掴むように撫でられながら落とされたキスを受け入れれば、簡単に体は温度を上げて、冬だというのにじんわりまとうような汗をかく。


「今日の服……脱がすのもったいないくらいかわいい…」

「ん…っは、ぁ……こういうの、好きなの…?」

「優奈ちゃんなら…なんでも好きだよ」


 全身を、服ごと大切に扱い触った彼女にそう言われて、嬉しさと照れが入り混じって心臓も体も縮こまる。

 そんなわたしの額や頬に唇を押し当てては熱い吐息を溢す樹希さんは、眉を垂らして強く抱きしめてきた。


「なんでこんな…かわいい格好してきたの」

「…た、たまには、いいかな…って」

「ほんとにそれだけ?ナンパ待ちとかじゃない?」

「ちがう…よ。みんなきっとお洒落だから、わたしもって……思っただけで…」

「そっか。…ちゃんとあの中で、一番かわいかったよ」


 お世辞か本心か分からない褒め言葉に戸惑って、素直に喜べずいたら、彼女は困った顔で笑った。


「だから思わずナンパしちゃった」

「う、うそつけ…」

「はは、ごめんごめん。でも……そのくらい、魅力的だよってこと」


 これはお世辞だ…と分かって拗ねて尖らせた唇に向かってキスをして、宥める手つきで頭を撫でられる。

 自然と、だんだんと深くなっていく相手の唇や■にゾクゾクとした興奮を受けながら、早く触ってほしい手が勝手に相手の服を掴んでねだった。

 何も言わなくてもその期待に応えてくれようと動いた樹希さんの手が服の裾を持ち上げて、露わになった■を下着の上から包み込む。


「今日はせっかくだから…脱がせないでしよっか」

「う、うん……いいよ…」

「こんなかわいい服装の優奈ちゃん、楽しまないともったいないもんね」


 よほど気に入ったらしく、そんなことを言って体を起こして、全体を堪能するように見下ろされた。


「まじでかわいい…」


 膝の下に入った手が、焦らすように降りていく。


「腰…上がっちゃうね」

「っい、言わないで…」

「まだちゃんと触ってないのに……もう欲しくなっちゃったの?ここ」


 わたしの体の動きひとつひとつを見逃さないで視界に捉えて、浅く揺れ動いた腰つきを見て樹希さんはどこか満足気に微笑んだ。

 服越しに軽く押された刺激だけじゃ物足りなくて、着ていたニットの裾で顔を隠しながら、自ら押し付けるように動かす。

 きっとどんなに強がっても、わたしの体はもう…彼女に触れられる■■を覚えさせられてるから、大きすぎる期待感と欲の前では逆らえない。


「…そんなかわいい顔も服も、誰にも見せないで」

「っ……う、ん…見せないから、はや…く…ぅ」

「すぐ触ってあげるから……大丈夫だよ、優奈ちゃん」

「ぅう…あっ……」


 望んでいた刺激が手に入った瞬間、理性は弾けて。


 無我夢中すぎて、その後はあんまり覚えてない。



  

 















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