第17話
空が明るくなってきた早朝にふたりして気絶するように寝落ちして、目が覚めたのは日も登りきった昼過ぎだった。
「あーあ……ケーキぬるくなっちゃった…」
「また冷蔵庫に入れて、冷やしてから一緒に食べよーよ」
「食べられるかな…?」
「へーきへーき。お腹壊したら看病してあげる」
「……一緒に食べる樹希さんもお腹壊すと思うんだけど…」
「大丈夫。そうなっても面倒見るよ」
ほんとかなぁ…?と半信半疑に思いつつも、そう言ってくれる親切心はありがたく受け止めた。
わたしが食べ残したままにしちゃってたテーブルの上のチキン達を片付ける作業を樹希さんも手伝ってくれて、そのついでにいくつかつまみ食いをしていた。
「お腹すいた?」
「…うん」
「これ温め直して食べる?」
「……優奈ちゃん食べる」
「もう……わたしじゃ、お腹膨れないよ?」
と、言いつつも、望まれれば差し出しちゃうんだけど。
朝まで盛っていたというのに、ソファの上でまたちょっとイチャイチャして、さすがに空腹の方が勝ったらしい樹希さんの要望を叶えるためふたりでスーパーに出かけることにした。
昨日とは打って変わって、上下セットのブランドのロゴが小さく入った黒ジャージという緩い服装を身にまとった樹希さんは、香りだけは気を遣ってかわたしのあげた香水をふりかけていた。
「はい、優奈ちゃんも。手首出して」
「……ん」
そしてわたしにも、樹希さんが作ってくれた香水をかけてくれる。
わたしもわたしで今からお化粧したり、ちゃんとお洒落するのは面倒だったから部屋着のロングワンピースの上からコートを羽織って準備を済ませた。
念のためお財布の中身を確認して、足りそうだったからそれだけ持って家を出る。
「うぅ……わぁ、さむいね」
「…手、繋ごっか。優奈ちゃん」
外に出てすぐ、吹いた風によって体を縮こませたわたしの手を取って、自分のポッケへとしまってくれた。
こういう仕草ひとつひとつに慣れを感じる。
昨日もそうやって、女の子を喜ばせてきたのかな……って、落ち込むことを自ら考えては、複雑な思いを抱えた。
「…優奈ちゃんさ」
「ん……なに?」
「昨日、私が帰らなかったら……何してた?」
向かう途中、脈絡もなくそんなことを聞かれて、晴れた空を見上げながら考える。
「うぅんー……お酒飲んで、寝て…終わり?」
「……ほんとにそれだけ?」
「うん、ひとりですることもないし…」
「他のやつと会ったりとか…しようとしてない?」
「しないよ〜、そんな相手もいないもん」
途端にホッとした樹希さんを横目で見て、もしかしてわたしが男の人と過ごすのが嫌で帰ってきてくれたのかな…なんて単純な思考回路で都合の良い答えを思い浮かべた。
そんなわけ、あるはずもないんだけど。
とりあえずは安心したのか、気分良く足を動かす樹希さんの隣を、わたしも少し機嫌を良くして歩く。
「あ、そうだ…樹希さん。ご飯、何が食べたい?」
「クリスマスだから、チキンとか……あ、ポテト食べたい」
「いいね。冷凍の揚げよっか」
「うん!ピザも食べる」
「ん…ふふ。全部買おうね」
大きい子供ができたみたいで微笑ましく思っていたら、不意に立ち止まった樹希さんの手が、足を止めるのが遅れて先を歩いたわたしの体を後ろから抱き包んだ。
突然の行動にびっくりして肩を小さくする。
「え、な…なに……どうしたの?」
「……ほんとは、会いに来るつもりじゃなかったんだけど」
項垂れて、首元に頭を乗せた樹希さんは、震えた声で小さく呟いた。
「むりだった。…優奈ちゃんに、会えないの」
そこで初めて、わたしのためにわざわざ帰ってきてくれたんだという本心を知って、素直に嬉しくなってしまった。
舞い上がって自惚れてしまいそうな気持ちは、彼女への独占欲をさらに強めた。
そんなにも会いたいと願うなら、もうどこにも行かないで……そう言いかけて、やめた。束縛はしないって、決めたから。
「うれしい…」
鎖骨の辺りにあった腕に手を置いて下を向けば、独特な香水の匂いが鼻腔をつく。
それもまた嬉しくさせる要因のひとつとなって…すっかり寂しかった日々達のことなんかは忘れて、気分を上げた。
「…買い物終わらせて、早く帰ろーよ。ふたりきりでゆっくり過ごしたいからさ」
「……うん」
こうして無事に元の関係に戻ったわたし達は、食料を調達して家に帰った。
帰宅してからはふたりで映画でも見ながらご飯を食べて、お酒も飲んで、デザートにはケーキもお互い食べさせ合った。
……昨日は大きいと思ってたけど、ふたりで食べるには小さかったかな。
ケーキのサイズひとつ、樹希さんと食べると幸せなことのように思う。
樹希さんはかなり飲める人みたいで、わたしがお腹いっぱいになってソファで小休憩を挟んでる間も、家にあったワインをちびちび味わいながら楽しんでいた。
食べ終わる頃には、ひとりでワインを一本開けていて、それでもベロベロに酔う……なんてことはなく、
「優奈ちゃん……キスして。頭撫でて…」
ただ、いつにも増して甘えたがりにはなってた。
「会えない間さびしかった。…優奈ちゃんもさびしかった?」
「うん……すごく」
「なんで連絡くれなかったの?」
ソファの上、樹希さんの足の間にしっかりと捕らえられて、後ろからちょっとだけ怒ったみたいな声がする。
なんで……って聞かれても、そっちが帰ってこなかったんじゃない。そんな状況でメッセージなんて送れるわけ…
と、なんとなく理不尽な気がして責めたくなるものの、そうはせずに理由を考えた。
「……怒ってたから、しつこく連絡したらもっと怒られちゃうかな…って」
「怒んないよ」
「でも、怖くなっちゃったの…」
嫌われたらどうしようって、ずっと。
不安に抱えていたものがまた込み上げてきて、涙でぼやけた視界をなんとか堪える。樹希さんの前で泣くわけにはいかないから。
「…私は、怖いことしないよ」
わたしの不安を汲んで、安心させようと額に口づけしてくれた彼女は、両手で顔を包みこむ。
「そんなに怯えないで。……殴ったりとか、しないからさ」
元カレにされてたことを知ってるからこそ出たんだろう、穏やかさに溢れた言葉に、耐えきれず瞼を落としたら、涙の粒が頬を伝ってしまった。
一度溢れたら止まらなくて、堰を切ったように泣き出したわたしを、樹希さんは何も言わずに抱きしめて、ただ背中をさすってくれていた。
優しさに心打たれて泣くのは、初めてだった。
彼女に泣かされる女の子の多くはこういう理由も多かったんじゃないか…って、今なら思う。
確かに明確に付き合ったりとかがないもどかしさとか、体だけの関係になっちゃってる不安定さとか、他の子に取られちゃうかもしれない心配とか、そういうマイナスなことも多いけど。
でも、それを上回る安心感も与えてくれるから、そんなのどうだってよくなってしまう。
「ごめん……泣かせて」
「っ…わたしも、ごめんなさい……泣かないって、言ったのに…」
「いいんだよ……むしろ、今までそれで我慢してたの?」
「う、ん…っ」
「はー……ほんと健気でかわいーね、優奈ちゃん」
抱きしめて、甘やかすように顔周りの色んなところにキスを落としてくれた。
「安心してよ。ちゃんとここに戻るから」
最後には帰ってきてくれることも、今回のことで知れた。
そうなったらもう、このままでいい気がしてきた。
どれだけ他の子を抱いていても、最終的にわたしとこうして過ごしてくれるなら、それ以外にはもう何もいらない。
「樹希さん……すき…」
思いが溢れて、涙を流しながら伝えれば、頭の後ろを支え持った状態で顔を上げさせられて唇を奪われる。
「私も好きだよ、優奈ちゃん…」
そのままソファの上に背中が沈んで、荒れた吐息を整えることもなくふたりの間で溶かしていく。
相手への感情が過去最大に盛り上がっているわたしと同じくらいの温度感で、樹希さんも興奮してくれていた。
服を脱がせる余裕もないのか、性急な手が布と肌の隙間に入り込んで、わたしもわたしで我慢できずに自分から■を浮かせて押し当てる。
「あぅ、う〜……っは…きもち、いい…」
「はぁー……反応かわいい。まじで一生抱ける。こんなに相性いい子、はじめてかも」
「んっ……ほ、ほんと…?」
「ほんと。じゃなかったら、一日でこんな何回も誘わないよ」
「あ、はぅ……う、れしい…もっと、して。もっと触って、樹希さん…」
「もちろん。…優奈ちゃん、してほしいこと他にもいっぱい教えて」
ぐずぐずに甘やかされて、自分がどんどんわがままになっていきそうなのを自覚しながら…それが良くないって分かっていながら、
「ここ…舐めて、ほしい」
せめて行為中だけは素直に求めていたいと、服をまくりあげて■の膨らみをさらけ出す。
さっそくわたしの願いを叶えてくれた樹希さんの頭を腕で抱え込みながら、我も忘れて■■に浸った。
一度始まってしまうと、そこからは長くて。
何回か水分補給するために休憩を挟んでは、会話をしてるうちにまた気分が盛り上がってキスをして……キスしたら、またわたしからもおねだりしちゃって、触ってもらって。相手からも誘われて…結局。
日が沈みだして暗くなってきた夕方過ぎにわたしの体力が尽きて、触られてるというのに眠気が来ちゃって、気が付いたら意識が落ちていた。
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