第6話
「さて降りてもらおう」
目隠しを外し、車を降りる。眩しさに目を痛めつつ、周囲の状況を把握する。
私の近くに統合隊長はもちろん、その付き人らしき人物も立っていた。
いつの間にいたのかということにも驚いたが、更に驚いたのは訓練所の様子だ。
広い運動場に営舎が備わっている様子を想像したが、眼の前には扉が1枚立っているだけである。
さすがに理解が追いつかない。
そんな私に構うこともなく、グリマウンは扉のドアノブをひねる。
扉の先には階段が下へと続いていた。これも魔法によって成せる技なのだろう。
グリマウンの後をついていき、出口らしき光へと向かう。
階段を下りた先の世界には目を見張った。さっき想像していた訓練所らしき光景が広がる。おまけに空も広がっている。
「たしかに今階段を下りたはずなのに。ここは地下じゃないのか?」
「まごうことなき地下だ。君の世界にはこういう技術は無かったようだな」
グリマウンは何に驚いているのか分からない様子だ。
地下には軍服を着た男が敬礼をして立っていた。
ヒゲが伸びていて、顔は険しい。厳しい軍人といった印象を受ける。
「さ、時間がもったいない。始めてくれ」
グリマウンが男に声をかけると、私の方に駆け足でやってくる。
「ここに手を置け」
そう言うと男の掌の上で光を放ち白色の立方体がパッと現れる。
面の大きさは、成人男性の掌ならすっぽり収まるほどである。
拒否するわけにもいかないので、大人しく手を乗せる。
「これはいったい何なんだ?」
「腕のやつだけでは分からないことを調べるものだ」
私の疑問にグリマウンは短く答える。
彼は私の方を見るのではなく、付き人と一緒にもう一つの立方体に視線を向けていた。どうやら私の結果はグリマウンの出した方で見られるらしい。
手を置いて数秒すると、白の立方体が接触面から下へ向かって赤色へと変色していく。完全に下へと達するのに10秒もかからなかった。
2人は何やら真剣に話しているようだ。3分ほど話し合うと、グリマウンは掌を握りしめる。同時に立方体が消える。
「よし。離していいぞ」
「結果はどうなんだ」
グリマウンは頷きつつ、少し視線を落とす。
「私も軍人として多くの強く才能ある者を見てきたが、君には及ばない。まあこんなことを言うと気を悪くするかもしれないが、君がこの世界に来るのは運命だったんだと思う」
たしかに私の気は悪くなった。
グリマウンもそれを察知して、話題を切り替えようとする。
「こうなると計画変更だ。君には基礎訓練から時間をかけて教えるつもりだったが、より実践的な訓練を施した方が良さそうだ」
検査をするとは聞いていたが、訓練するとまでは聞いていない。いきなりのことに私が追求を試みるも、
「そういうことで、後はそこの指揮官に従うように」
そう言い残して、さっさと階段を昇っていってしまった。
地上に戻った2人は話が続いていた。
「統合隊長、彼を前線に投入するおつもりですか。いくら素質があっても無茶では」
付き人が不安げな表情で尋ねる。
「彼以外に現在の状況を打破できる人物はいない。私の考えに異を唱えるなら、何か代案を出してくれるのか」
「それは…」
「貴様が不安だという理由で、国を滅ぼすわけにはいかないのだ。分かったら持ち場に戻れ!」
「はい!」
付き人は敬礼をして、去っていく。
グリマウンは扉へと振り返り、独り言を呟く。
「彼なら帝国を取り戻してくれる存在に、英雄になれるかもしれないな」
一方、地下へ取り残された私は頑固そうな軍人と対峙している。
「さて、統合幕僚長のご命令であるから基礎訓練は省略する。しかし、最低限一つだけ教えなきゃならんことがある。それは敬礼だ」
カナラズモドル ~異世界よりも大事なこと~ カマモリリョウ @kamamori-ryo
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