第5話
部屋から解放されると、グリマウンに連れられて車に乗せられた。
「発車する前にコレを着けてもらえるか」
グリマウンが布切れを差出してくる。
「着ける?」
「外の様子を見るのは刺激が強すぎるだろう。この世界について詳しくなってから受け入れてもらおうと思っている」
ここで抵抗するのも無意味だろうから、私はしぶしぶ布を頭に巻き付けて視界を閉ざした。
1時間も乗っていただろうか。ずっと目隠しをされていると、揺れをより強く認識してしまう。いよいよ気分が悪くなりそうなところで、車が止まる。
「さあ」と声をかけられて下車する。
「ここが君の家だ」
その声と同時に目隠しが外す。
目の前には、2階建ての洋風な一軒家がそびえ立っていた。
小さいながら庭もある。一人で住むには大きすぎるというのが率直な感想だ。
「明日また迎えにくるから、今日はゆっくり休みなさい」
グリマウンは鍵を渡すと、車に乗りこみ去っていった。
鍵を開け、内装の確認もそこそこに2階へと上がり、ベットへと身体を
預ける。
薄くなっていく意識のなかで涙が頬を伝っていったことは鮮明に覚えている。
深い眠りから私を呼び起こしたのは、階下からけたたましく鳴るベルの音だった。
頭髪を少し整えて、玄関を開けるとグリマウンが立っていた。
「おはよう。よく眠れたかな」
「まあ、何とか」
「そうか。まあ身体を休められただけでも良かった。それじゃ行こうか」
「どこに行くんだ?」
「訓練所だよ」
身だしなみを整える時間をもらい、昨日と同じように目隠しをさせられる。
車に乗るまでの少しの距離を歩く間に子供の声が聞こえてきた。
「ねえ、次は何の遊びする?」
「うーんとね。あっそうだ!お父さんが教えてくれた遊びがあるんだ」
「えーつまらなそう。それより僕はかくれんぼがいいな」
「なんでだよ!お父さんの遊びだっておもしろいよ」
「だって、かくれんぼがしたいんだもん」
喧嘩に発展するんじゃないかと心配になると、新たな声が加わった。
「じゃあこの前、あのおじさんが教えてくれた遊びで決めない?えーと、たしかじゃん…」
そこまで聞こえて、車に乗せられてしまった。
あの家に住んでいれば、いつか顔をあわせる日も来るかもしれない。
車が出発して、すぐにグリマウンが話し始める。
「今日はまず適正検査を受けてもらう」
「検査?」
「ここに来てから気づいているかもしれないが、この世界には魔法が存在している。君の魔法がどういった属性で、どの程度まで成長する余地があるのか検査させてもらう」
「魔法を使うにはこの腕のモノが重要なのか?」
左腕を掲げるようにして、声を頼りにグリマウンがいるであろう方向に見せる。
「そうだ。どれだけ魔法の素質があっても、それを着けなければ魔法を使うことはできない。同時にそれは自分自身の強さを把握するためにも役立つ」
「この針1本で?」
腕をおろし、ガラス面を指でトントンと叩く。
「そこを起点として一周するとレベルが上がったことを示す。まあ、訓練関係は現場の者に聞いてくれ」
「それより他に聞きたいことはないのか?」
「そうだなあ」
聞きたいことは山ほどあるが、まずはこの世界について知るべきだろう。
「この世界にはイガリア国以外にも国はあるのか?」
「当然だ。この大陸には我が国以外に30カ国近くの国が成立している。肥沃な土地を有し農業を主要産業にする国もあれば、大陸の交易地として商業なんかで栄える国もある」
やはりどんな世界でも国によって特徴があるものなんだなあ。
「大陸は広いからなあ産業も自然環境もバラバラだ。共通するのは人種と宗教くらいか。まあ、それも最近は崩れつつあるが」
「外交問題でもあるのか?」
「基本的に我が国は全ての国と国交を有している。ただ、最近は我が国に遺憾ながら非友好的態度をとる国も現れ始めているということだ」
「さあ、そろそろ訓練所に着くぞ」
目隠しのせいでどれだけ移動したかは、体感時間で想像するしかない。
(そういえば車が走りだしてから一度も停車していない気がする。この世界では車は一般的じゃないのかもな)
残りわずかな時間で質問をひねり出す。
「じゃあ最後に。どうして統合隊長なんて偉い方が、わざわざ朝からこんな男一人に付きっきりでいてくれるんだ?」
一呼吸おいてグリマウンが答える。
「それだけ来訪者は重要ということだ」
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