第3話
両手と両足が光の輪に縛られている。
数人の兵士に担ぎ上げられ、トラックの荷台に連れ込まれる。
「敬礼をしなきゃいけないなんて知らなかったんだ!拘束を解いてくれ!」
全身で兵士達に訴えかける。
しかし、どうもこれは逆効果だったようだ。
「暴れるな!」
「しょうがない。到着まで眠ってもらおう」
顔の前に兵士が手をかざすと、強烈な眠気に襲われる。
ああ、何でこんなことになってしまったんだ。
妻は悲しんでいるだろうか。怒っているだろうか。
子どもは無事生まれただろうか。男の子だろうか。女の子だろうか。
今すぐ駆けつけて、抱き上げたい。顔を見たい。
戻りたい。帰りたい。目を開けば、病院の廊下にいるんじゃないか。
昨日と同じような日常が続くんじゃないか。
目を開ける。
「起きられましたか」
その声は明らかに男であった。
「このような形でお会いすることになり、申し訳ない」
白髪まじりで顔を見るに60代以上だ。スーツを着て椅子に座っている。
部屋には男の背後に机があるぐらいで、コンクリートを打ちっぱなしにした壁が閉塞感を与えてくる。
私といえば相変わらず両手両足を拘束されて、椅子に座らされている。
「私はイガリオ国防衛大臣ライト・アイオだ」
(イガリオ?そんな国聞いたことがない)
私の心を読んでいたかのように大臣が話す。
「ここはあなたの立場からすれば異世界の国ということになる」
「じゃあ私はやっぱり…」
「異世界に転移してしまったということになる。これはまったく不幸なことだ。この国では異世界から紛れ込んでしまう者が定期的に現れるんだ」
「私は元の世界に帰りたい。この国に迷惑をかけるつもりはない」
「それは難しい。我が国には人を異世界に転移させる技術力はない。あなたがこの国に来たときのように偶然を期待するしかない」
「そんな…」
目の前が真っ暗になるとは正にこのことだ。
異世界に連れてこられたと言われた方が、怒りをぶつけられるだけマシだった。
全身から力が抜ける。自暴自棄にすらなれない。
「せめてと言ってはなんだが、この国で暮らさないか?」
「はい?」
「我が国では異世界来訪者特別法によって条件を満たせば、居住権の付与と各種税金の免除が行われている。右も左も分からない状態で異世界に放り出されるよりはマシだろう」
大臣が立ち上がる。
「我が国の憲法で国籍に関わらず全ての人間に自己決定権を認めている。最終的に決断するのは、マシロヒロムあなた自身だ」
異世界から来た人間にとっては願ってもない厚遇だろう。
だが、何か裏があるんじゃないのか?そうだとしたら奴隷のような扱いを受けるかもしれない。
それでも野垂れ死にするよりは、偶然を待ちたい。
希望を持っていたい。
私は顔を上げ、大臣の目をまっすぐと見る。
「条件を聞かせてほしい」
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