四十七世の星

三日月未来

第一話 霊夢の始まり

 大政奉還から三百三十三年後の元旦の朝、四十七の前世を持つ双子の聖女が徳田財閥附属病院で産声を上げた。

 水色の瞳に水色髪の妹はルシアと命名され、もうひとりの紫色の瞳に紫髪の姉はコットンと呼ばれることになる。


「お姉ちゃん、小さくなっちゃった」


「いやだ、ルシアだって赤ちゃんじゃない」


「変ね、零がまたミスしたかしら」


 コットンは、眠りに落ちて前世の夢の中にいた。

懐かしい顔ぶれにコットンの目尻から涙が溢れる。




 コットンの近くで、女の声が聞こえている。


[ドン、ドン、ドン]


 コットンの新しい寝室の扉が乱打されていた。


「コットンさま、朝食のお時間です」


 コットンは、二日酔いの重い頭をそっと起こしてメイドに尋ねた。


「ねえ、アルファ、今何時」


「はい、七時でございます」


「寝坊ね。ルシアは、どうしている」


「先にブレックファーストルームにセーラさまと行かれました」


「ニーナは」


「ニーナさまは、控えの間でコットンさまをお待ちしています」


「分かったわ。アルファ、着替えを用意して」




 アルファの合図でメイドが三人、コットンの寝室に着替えを運んで来た。


うす紫色のスカートスーツに紫色のシャツを着て同じ色のハイヒールを履いた。


「アルファ、準備が出来たわよ。ニーナを呼んで」


 メイドのアルファが秘書のニーナを連れて来た。


「ニーナ、お待たせしました。

ーー 行きましょうか」


「コットンさま、ジャケットは」


「ごめん、ちょっとぼーってしていたので」


「そうですか」


「ちょっと変な夢を見ていたの」


「どんな夢ですか」

 ニーナは手鏡をハンドバックから取り出しながら言った。


「それが不思議な夢なの」


 ニーナは、鏡をコットンに見せた。


[キャー]


 コットンの悲鳴にアルファが近寄ってニーナに尋ねた。


「ニーナさま、その鏡は」


「これ、マジックミラーよ。

ーー 別名、夢鏡って言うの。

ーー 見た夢を映し出す鏡よ」


「じゃ、コットンさまは、何を見たのでしょう」


「コットンさまに聞かないと分からないわ」




 ニーナがコットンに尋ねた。


「夢で見た光景が鏡から見えたの」


「コットンさま、どんな光景ですか」


「私とルシアが赤ちゃんになっていたわ」




 コットンの耳元でルシアの声が聞こえた。

「コットン、学校に行くわよ」


 コットンは夢の中の夢から目覚めた。


「ルシア、私また変な夢を見ていたらしい」


「それ、前世夢かもね」


「前世夢って」


「霊夢の一種ね」


「でも、すごくリアルだったわよ」


「前世の体験は無意識の中に残っているわ」


「じゃ、あの夢の出来事は」


「半分が本物で、半分が脳の想像と言われているわ」


「言われているって」


「同級生の占い部のメリウスと零の話よ」


「そうか。メリウスか」


「コットン、もう行くわよ」




 ルシアは、アイテムボックスを空間に出して、その中からマジックステッキを取り出した。

 無詠唱で転移ステッキに変える。


 ステッキが黄金の光を放ち、ルシアとコットンが神聖女学園の占い部部室に瞬間移動した。


「コットン、タイムロスは無くなったわね」


「ルシア、今のは」


「コットン、なに惚けているのよ」


「・・・・・・ 」


「神聖女学園は、別名魔法女学園よ。

ーー 魔法学科の生徒には当たり前ね。

ーー でも転移魔法だけは禁止されているのよ。

ーー だから内緒」


「コットン、教室に行くわよ」


「ええ」


「一年B組よ」


「零も、メリウスもいるの」


「コットン、みんな同級生よ。まだ寝ているの」


「そんなことないけど」




 ルシアとコットンは、教室の扉を開けた。

 他の生徒たちが、空間のアイテムボックスから教科書を取り出している。

隣にいた女子生徒は、教室の後ろの席から前の席に空間を移動した。


 メリウスと零が手招きしている。


「ルシア、一時間目は古典の昼間夕子先生の授業よ」


「あのベストセラー作家の」


「違うわね。あれはロングセラーよ」




 教室内がザワザワし始めた時、白いスカートスーツ姿にロングヘアの昼間夕子が入って来た。


「みんな、おはようございます」


 昼間は挨拶を終えホワイトボードを教室のマジックボックスから取り出した。

立方体化した小さなホワイトボードは昼間の言葉を自動書記している。


 生徒は、誰ひとりノートに書き写す者がいない。

すべて生徒たちが持っているノート端末がホワイトボードの内容を共有していた。


 零が手を上げて夕子に質問する。


「あの先生、先生の竹取のかぐや姫をお願い出来ませんか」


「零ちゃん、この間もしてなかった」


「みんな、先生の生の朗読が大好きです」


「分かったわ。でもね、これは共有をオフにするわよ」


 昼間はホワイトボードの共有をオフにした。


 女子生徒たちのブーイングが教室の外廊下に響く。

廊下を歩いていた夕子の娘、昼間朝子が驚いて顔を出した。


「夕子先生、廊下まで響いていますよ」


「朝子、授業は」


「ちょっと、用事を思い出して自習にしています」


「そう、じゃ、私もそうするわ。

ーー と言うわけで続きは次回ね。

ーー 騒いだら、続きはありませんよ」




 夕子と朝子が教室を出て行き、ルシアとコットンが大きな溜息を漏らす。


「残念だったね。ルシア」


「零が折角リクエストしてくれたのに・・・・・・。

ーー でも、あの二人、ちょっと変わっていない」


「零だって、十分変わっているわよ」


「それは、どう言う意味」


「そうね、時代とマッチングしない雰囲気があるわ。

ーー まるでかぐや姫みたいにね」


「私たちのタイムスリップと先生たちのタイムスリップ、

ーー もしかして一緒かもしれないわ」

 二人の話を聞いていたコットンが言った。


「メリウス、どう思う」

 零は言ったが、メリウスは居眠りをしている。


[スースースー]


「メリウス、起きて! 」

零の甲高い声が教室内に響き同級生が振り返った。


 学園の校庭は五月の日差しが降り注ぎ桜の木の新緑が光っていた。

時より上風が枝を揺らしていた。

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