第5話 画面防御
「これぐらいでどうかしら?」
「うわっ!?」
マリアの掌から三日月状の風の斬撃が繰り出され、少し前にゴブリンを切り裂いた「風属性」の魔法だった。そしてステータス画面に斬撃が衝突した瞬間、呆気なく霧散して消えてしまう。
「あら、この程度の魔法なら耐えられるのね」
「び、びっくりした……いきなり撃たないでくださいよ!?」
「まだ安心するのは早いわよ。今度は三発同時に撃ち込むわ」
「ちょ、ちょっと!?」
次は三発連続に風の斬撃を繰り出されるが、全て画面に触れた瞬間に霧散して消えてしまう。魔法その物を無効化するというよりも画面が硬すぎて風の力が弾かれたように見えたマリアは眉をしかめる。
「下級魔法とはいえ、私の魔法を防ぐなんて大したのもね……それならもっと威力の強い魔法を試させてもらうわ」
「ま、待ってください!!それって俺は大丈夫なんですか!?」
「安心しなさい。死にはしないわ……多分」
「多分!?」
今度は両手を構えるとマリアの掌の中で風の魔力で構成された「渦巻」が生み出され、彼女は気合を込めた声で繰り出す。
「ストームバレット!!」
「ひいいっ!?」
ステータス画面に渦巻状の風の塊が放たれ、画面を削り取る勢いで吹き溢れる。だが、画面は傷一つ付かずに先に魔法の効果が切れてしまう。
「はあっ、はあっ……中級魔法でも破れないなんて、流石は古代魔法ね」
「ちょ、ちょっといい加減にしてください!!今のが当たってたら死んでましたよね俺!?」
「そ、そんな事はないわよ……当たる前に魔法を消せば問題ないわ」
渦巻きに巻き込まれていたらミンチになる所だったナオは抗議するが、そんな彼に対してマリアはまだ諦めていないのか、今度は両の掌を重ね合わせた状態でナオに構えた。
「次こそは私のとっておきの魔法で打ち砕いてあげるわ」
「ちょっと待ってください!!主旨変わってませんか!?魔法の性能を確かめるだけなんですよね!?」
「一歩でも動いたら死ぬわよ!!しっかりと構えていなさい!!」
「ひええっ!?この人負けず嫌い過ぎる!!」
マリアに脅されてナオは右手を構えたまま微動だにしないと、彼女は魔力を両手に収集させて自分の誇る最高の魔法を繰り出そうとした。
エルフの中でも使える者は滅多にいない上級魔法をマリアは発動させ、彼女の量の掌から極小の「竜巻」が生み出される。手元に作り出した竜巻の形を「槍」のように変形させると、ステータス画面に目掛けて投げ放つ。
「トルネードランス!!」
「うわぁあああっ!?」
ステータス画面に竜巻の槍が衝突した瞬間、強烈な風圧が辺り一面に広がった――
――数分後、ナオとマリアは地面に突っ伏していた。ナオの方は特に怪我はしていないが、マリアは滝のような汗を流していた。
「ま、まさか私の魔法が通じないなんて……」
「はあっ、はあっ……し、死ぬかと思った」
結局はマリアの繰り出した魔法は全てナオの作り出した「ステータス画面」に防がれ、どんな魔法攻撃を繰り出しても画面には傷一つ付かなかった。しかし、仮に画面で身を守っていなければ確実にナオは死んでいただろう。
これ以上にマリアの傍にいると何をされるか分からず、ナオは彼女が疲れている内に逃げ出そうかと思ったが、森から脱出するためには彼女に案内してもらわないとならない。そのためにナオはマリアに土下座して頼み込む。
「もうこれ以上は勘弁して下さい!!魔導書の弁償代も払います。家の物を全部売ってお金にして返しますから……」
「別に金に困ってないからいらないわ。それに貴方に渡した魔導書は金に換えられる代物じゃないのよ」
「じゃあ、どうすれば……?」
ナオはこれ以上に魔法の実験に付き合うのは避けたいが、マリアとしては異界人の魔法は興味が尽きず、もっと調べてみたいと考えた。
「そうね……だったらこうしましょう。貴方を私の弟子にしてあげるわ」
「ええっ!?」
「どうせ家に帰っても肩身がせまいでしょう?手紙によれば村人とはあまり仲が良いようではないし……」
「そ、それは……そうなんですけど」
産まれた時から黒髪であるナオは家族以外の村人からは不気味がられており、唯一の肉親だった祖父も死んだために村に戻ったとしても居場所はない。それでも危険な魔物が巣食う森に暮らし、実験のためとはいえ躊躇なく魔法を撃ち込んでくるマリアの元に残るよりは外の世界の方が安全に思える。
「貴方、今失礼なことを考えたでしょう?」
「い、いや……そんな事はありませんけど」
「はあっ……仕方ないわね。だったら取引をしましょう」
「取引?」
マリアは自分の家を指差し、一先ずは家に戻るように促す。ナオは彼女の気分を崩さないために家の中に入ると、机を挟んで改めて二人は向かい合う。
「私は古代魔法の研究をしているの。今の時代には失われた伝説の魔法……それらを解明するために世界中を旅してきたの」
「へえ、そうなんですか」
「貴方に見せた魔導書はこの森に存在する遺跡から発見した代物よ」
「遺跡?そんな物がこの森にあるなんて聞いた事もないですけど……」
森の奥地に遺跡が存在するなどナオは知らなかったが、魔物が巣食う危険な森に人間が入り込むはずがなく、仮に居たとしても大半が遺跡に辿り着く前に引き返すか魔物に殺されているため、遺跡の存在が知られていないのも無理はなかった。
「こんな森に入ろうとする人間なんてよほど変わり者か、あるいは自殺志願者ぐらいよ。貴方とお祖父さんは前者のようだけどね」
「ううっ……」
「この森から抜け出したいのであれば私の力を借りるか、あるいは自力で抜け出すしかないわ」
「ちなみに力を貸してくれたりとかは……」
「嫌よ。まだ私は貴方のした事を許してないんだから」
「そ、そんな……」
魔導書を読み解いて古代魔法を覚えた事に関してはナオも悪気があったわけではなく、マリアに言われて文字を読んだだけである。その点に関してはマリアも負い目を感じているのか、彼女は提案を行う。
「私が貴方を外まで連れ出す事はしないけど、その代わりに魔法の指導をしてあげるわ」
「指導?でも、マリアさんは古代魔法は覚えてないんですよね?」
「あら、同じ魔法は覚えていなくとも私が魔術師として先輩である事に変わりはないわよ。それに貴方にとっても悪い話じゃないはずよ。古代魔法を扱いこなせるようになれば森から脱出する際に役立つはずよ」
「……確かに」
マリアの言う通りに古代魔法を使いこなせるようになればナオにとっても悪い話ではなく、実は子供の頃から「魔術師」という存在に憧れを抱いていた。
(悪い話じゃないかもしれない。それに帰った所で……誰も僕を待ってくれる人はいないんだ)
ナオが村に戻った所で帰りを待つ家族は一人もおらず、しばらくの間はマリアの元で魔法の使い方を学ぶ事にした。
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