転生のガンマン

一希児雄

Episode1 ダイゴ・キッド

 静まり返る荒野の町に吹きすさぶ風の中、彼は鼻の曲がった男と対決した。その鼻の曲がった男は、賞金1万2千ドルの掛ったお尋ね者のメキシコ人で、名前はサンチョ。この町に度々やって来ては住人達を苦しめていた。保安官は殺され、逃げようとした住人も、町を出る前に次々と殺されてしまっていた。町の何処かに裏切者が潜んでいて、裏でサンチョと手引きし、住人達の情報を知らせていた。住人達はすっかり臆病になり、サンチョ一味の恐怖にいつも苛まれていた。


 その日、サンチョはいつものように手下5人を引き連れて、住人達から金品や食料を奪いに町にやって来た。けれど、町は静まり返り、住人の姿は一人も見えなかった。

「おいどうした町の連中よ!隠れてるつもりか⁉とっとと出て来やがれ‼」サンチョはそう叫び、弾丸を空に向って放った。そしてサンチョ達の前に、オルテガ柄の黒いポンチョを風になびかせ、テンガロンハットを深々と被った彼が姿を現す。

「よおし出てきたな。それじゃまずお前からだ。有り金を全部そこに置いていけ‼」

 彼は少し沈黙を置いてから言った。

「…お前らに渡す金なんかない…とっとと出て行け」

「?…ふっ…ふふっ、よく聞こえなかったな。なんて言った?」

「耳の悪い奴だな…出て行けって言ったんだよ」

「…ふっ…ふはは…ふははははははははぁ‼」サンチョ達は大声で笑った。

「ふふふ…良い度胸してるなおめぇ!てぇしたもんだ!…だがな、俺を嘗めるんじゃねぇ‼」

 彼の強気な態度に憤怒したサンチョは銃口を向けた。だがその途端、サンチョの持っていた拳銃が弾き飛ばされた。彼の放った弾丸がサンチョの拳銃を撃ち落とし、続けて5人の手下の肩や腕を撃ち抜いた。手下達は落馬し、痛みに悶え苦しむ。サンチョはあまりの早撃ちに唖然とした表情を浮かべた。彼の右手に握られた銀色のコルト・シングル・アクション・アーミーが鈍く輝く。

「馬から降りろ!」

 サンチョは彼の言われるがままに馬から降りた。すると彼は、持っていた拳銃を地面に放った。

「俺とお前との一対一の勝負をしよう。自分の拳銃の所まで歩くんだ。そして拾って撃て!」

 彼とサンチョは、ゆっくりとそれぞれの落ちている拳銃の方へと歩いた。

〈ふん、腕は確かに良いが、とんでもねぇ大馬鹿野郎だ。さっき俺の銃と、子分ども5人を撃って弾はもう無いはずだ…〉サンチョは自分の拳銃の前に立つと、素早く拾い上げて撃鉄を降ろした。


 一発の銃声が町中に響き渡った。


 けどそれはサンチョの銃声じゃない。彼の拳銃から放たれた、7発目の弾の音だった。

「ば…ばかな…‼」

 右上腕を撃たれたサンチョは地面に両膝をついた。

「て、てめぇ…一体なにもんだぁ…‼」

 彼はサンチョの問いに答えた。

「…俺の名はダイゴ。ダイゴ・キッドだ」

「て…てめぇがあのダイゴ・キッドか…噂で聞いてはいたが、てぇした腕だぜ…さぁ殺せ‼」

しかし、ダイゴは拳銃をホルスターに収めた。

「な、なんで殺さねぇんだ!」

 ダイゴは首を横に振り、「あんたみたいに非情になれないのさ」と、その場を立ち去ろうとする。けれど手下の一人が拳銃を拾いダイゴを狙った。撃鉄の音に気付いたダイゴは再び銃を抜き、手下の拳銃を弾くと、続けて地面に落ちている手下達の拳銃を弾き飛ばした。サンチョ達は只々呆然とし、その場で固まって動かなかった。

 ダイゴはサンチョとの戦いに勝利した…しかし、立ち去ろうとするダイゴを狙うライフルの銃口が…!

「そういえばあなた髪伸びたわね。床屋に寄ったらどう?ダイゴ」

 床屋の方を見たダイゴはライフルに気付き、すかさず拳銃を抜いた。床屋の窓ガラスの割れる音が鳴り響く。店の中を覗くと、右肩を撃ち抜かれた床屋の主人が倒れていた。

「どうやら、裏切者はコイツだったようだな…」

「ち、ちくしょー!やりやがったなぁ‼これじゃもう商売が出来ねぇじゃねぇかぁ‼」


 対決が終わると、町の住人達が外へと大勢出てきた。そして、町長が感謝の気持ちを述べた。

「いやはや、なんとお礼を申したら良いか。お噂は聞いておりましたが、まさかこれ程とは…町の者を代表して、心から感謝いたしますぞ!」町長は続けて言った。「どうか、この町の保安官になってくれませんかね?」

「ふふっ…悪いけど、俺は根無し草のガンマンの方が性に合ってるんだ…保安官なんてとても無理さ…」

 ダイゴは町を去ろうと、愛馬のジャンゴに跨った。

「もうすぐ警備隊がこの町に来るはずだ。これで皆も元の生活に戻れるだろう」

「あ、あの、賞金はどうなさるんです?」

「やっと悪党どもから解放されたんだ。あんたらで自由に使ったら良いさ。それじゃ!行けジャンゴ!ハァ‼」ダイゴは町を後にした。荒野の彼方へと去って行くダイゴを、住人達は手を振って見送った。


 ダイゴは町から2キロほど離れた荒野まで来るとジャンゴから降りて、拳銃を手にして言った。

「さっきはありがとうマリア」

 そして、私は拳銃から女神の姿に戻り、ダイゴの胸ぐらを掴んで怒りをぶちまけた。

「このウエスタン馬鹿ぁ‼️」

「ちょちょちょっ!ど、どうしたんだよマリア⁉」

「どうしたんだ?じゃないわよ‼️さっき私を地面に放り投げたでしょうが‼見習いとはいえこれでも誇り高き女神なのよ‼️神よ‼️ゴッドよ‼️床に落ちてる髪やゴミじゃないのよ‼️」

「まままま、謝るから一旦落ち着こうマリア」

 マリア、それが私の名前。この男・黒澤くろさわダイゴを西部劇の世界に転生させた女神。そして、彼の守り神でもある。一応…。

「全く…ガンマンになったからって、あんまし調子に乗らない事!あなたがこうやって活躍出来るのも、私のおかげって事を忘れないでほしいわね」

「わかりました。感謝してます女神様。それじゃ、今夜の宿を探しに行くか」

 ダイゴは再びジャンゴに跨がり、次の町に向かって歩かせた。私もまた拳銃の姿になり、彼のホルスターに収まる。全く窮屈ったらありゃしない。

「宿ならさっきの町で止まれば良かったじゃない」

「英雄は役目を終えたら颯爽と去って行くものさ☆」

「カッコつけちゃって。ていうかあなた、賞金受け取らなかったけど、ちゃんとお金持ってるの?」

「心配すんなよ。宿に泊まる金ぐらい持って…」

 ダイゴは突如黙り込んだ。

「…?どうしたのよ」

「いやぁ…そ、そのぉ…」

「…あ、あなたまさか…!」

 ダイゴは懐の茶袋から一枚の1ドル銀貨を出して言った。

「…これしかなかった」

 それを聞いた私は、怒りのあまりに弾を連射した。

「わっ‼ちょっ!あぶないあぶないって‼」

「ばっかじゃないのぉ!?なんでお金ないのに賞金受け取らなかったのよ‼️」

「いや、少しくらいはあるかと思って…」

「今から町に戻って賞金を貰いましょ!」

「そんなダサい事したくない!」

「カッコつけるんじゃないっつーの‼️」

「大丈夫だよマリア!金が無かろうが、どんな困難に陥ろうが、二人一緒ならきっと乗り越えて行けるさ!ね、女神様☆」

「こっ…このウエスタン馬鹿ぁああ-‼️」


 本当に、こんな馬鹿に付き合い続けて、私は立派な女神になれるのだろうか…?

 

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