第1話 噂のはじまり
山田翔太は、都会の喧騒から逃れたい一心で田舎の小さな町にやってきた。毎日の仕事に追われ、心身共に限界を感じていた彼は、思い切って数日間の休暇を取ることにした。訪れたこの町は、彼の疲れた心を癒すには十分すぎるほど静かで美しかった。
町に到着したその日、翔太は駅前の小さな旅館にチェックインし、荷物を置いてから早速町を散策することにした。昼下がりの柔らかな日差しの中、のんびりとした雰囲気が漂う商店街を歩いていると、一軒の古びた喫茶店が目に入った。「カフェ・みどり」というその店は、どこか懐かしい感じがして、翔太は自然と足を向けた。
店内に入ると、落ち着いた雰囲気とともに、コーヒーの香ばしい香りが漂ってきた。翔太はカウンター席に座り、店主に勧められた手作りのケーキとコーヒーを注文した。ケーキはふわふわで甘さ控えめ、コーヒーは濃くて香り高かった。しばらくすると、隣の席に年配の男性が腰を下ろした。
「こんにちは、お若いの。観光かい?」
「はい、少し休暇を取ってこちらに来ました。」
「そうか、それならこの町の良いところをたくさん見ていくといい。」
その男性は地元の常連客のようで、店主と楽しげに会話を交わしていた。翔太はその会話に耳を傾けていると、ふと男性が「麦茶の池」の話を始めた。
「この町には古くから伝わる不思議な話があってな、森の奥深くに麦茶の池があるんだ。見たことはないけど、噂ではその池の水は本当に麦茶の味がするらしい。」
「麦茶の池ですか?そんな話、初めて聞きました。」
翔太はその言葉に驚きつつも、半信半疑だった。しかし、その話にどこか魅力を感じ、興味が湧いてきた。
「ええ、私も見たことはないが、確かめる価値はあるかもしれん。若い君なら、きっと楽しめるだろう。」
翔太はその話を聞いて、心の中に一つの決意が芽生えた。この休暇の間に、その森を探検し、噂の真相を確かめるのも面白いかもしれない。彼は翌日からの計画を頭の中で描きながら、コーヒーを飲み干した。
その夜、翔太は旅館の部屋で地図を広げ、森の場所を確認した。地元の人々から聞いた話を頼りに、明日からの探検の準備を進めた。期待と不安が入り混じる中、彼の心は冒険への高揚感でいっぱいだった。
翌朝、早起きした翔太はリュックに必要な物を詰め込み、森の入り口へと向かった。鳥のさえずりと共に静寂が広がる森の中、彼の冒険の第一歩が始まるのだった。
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