KIMIKO×KAISOU
第49話:公子の回想
その日、学校帰りの公子が歩道橋を下から見上げた時、50代くらいのご婦人が歩道橋の上から街の景色を眺めているのが見えた。
ご婦人はきっと気付いていないのだろうけど、そのすぐ隣には若い男性、そう、無縁体のミテルくんが立っている。
それはまるで、街歩きの途中の母と息子、そんな風にもみえた。
互いに目も合わさず、言葉さえも交わさない二人のツーショットを、公子は不思議な気持ちでしばらく眺めていた。
数十秒ほどで、ご婦人はまた自分の目的に向かって歩き出し、公子の反対側へ歩道橋を降りて行った。
公子は歩道橋の上にあがり、ミテルの横、いつもの指定席に立った。
これも、視えない人から見ると、歩道橋に女子高生が一人で立っている、アブナイ感じに見えるのだろうな、と脳裏に浮かびつつも、公子にとっては、最近見つけたお気に入りの場所、それを手離す気にはなれなかった。
無縁体、の外見は、普通の人間と変わらないことが多い。
移動の仕方が人と違い、足はあるのに、幽霊のようにすすーっと移動するため、移動する無縁体は認識しやすい。
しかし多くの無縁体がそうであるように、ただ立ち尽くしているような姿は、ぱっと見では無縁体と分からない。
ただ、無表情のまま何分も微動だにしなければ、やがてその異様さから無縁体だと分かる程度だ。
他の人には視えないミテルの横に立ち、公子は、子供の頃に初めて無縁体と出会った日のことを思い出していた。
公子の住む街の西側には古くからの住宅地がある。
その中の一軒に、公子は姉と習い事のために通っていた。
そこはよくある住宅地で、通りに面して様々なタイプの塀が立ち並び、そのところどころに各家への玄関口がある、そんな道が続く。
右も左も似たような景色が続くので、時々自分が迷っているのではないかと不安にさせられる、そんな地区だった。
ある一件の家の門脇に、いつも立っている中年の男性が居た。
その後ろには表札があり、『石井』と書かかれている。
公子と姉は、そのおじさんを「石井さん」と呼んだ。
そこからしばらく進んだ四つ辻の角にある家の前では、いつも掃除をしている中年女性が居た。
その玄関には『渡辺』と書かれた表札があり、公子たちは「渡辺さん」と呼んでいた。
公子は姉に言われるまで、長い間、その石井さんが無縁体だとは気づいていなかった。
「いい?公子。他の人が無視してたら無縁体だと分かるけど、こういう他に誰も通らないような場所で無縁体か見分けるには、どうすればいいか分かる?」
幼い日の姉が公子の手を引いて、柱の陰に隠れて神妙な顔で切り出した。
お人形みたいに可愛い目だなぁ、と公子はぼんやり考えながら、問いに対して首を横に振った。
「こっちから、声をかけるのよ。」
幼くしてどや顔を習得していた姫子は、その顔をしてみせた。
二人はしっかりと手をつないで歩き出した。
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