第46話:公子の困惑

「何とか、この店に現れないようにできないもんかしら?」


という言葉を受けて、再び公子に視線が集まる。


「無縁体の行動を制限するのは難しいと聞いていますので、私には何とも…」


公子の脳裏に、先日のミテルくんの暴走と、ミテルくんとの会話の記憶がよぎった。


入らないようにするには、店の周りに結界を張り巡らして、それを営業中は維持し続けておくのだろうけど、それも結構大変そうに思える。

そもそも無縁体の行動を制限する方法について、修行前の公子はまだ詳しく知らされていない。

言葉で依頼として伝えてみたら…と考えてもみたが、それが成功する確率も低そうだった。

ミテルくんは、あの日以来、公子の言葉に一度も返事をしてくれていない。



一通り磨いて満足したのか、いつの間にか店内からみが子さんの姿は消えていた。


「きみぽん、お願い、何とかして!ママの新しいお店が幽霊騒動で潰れちゃうなんで嫌だよ…。」


彩芽に泣きつかれながら、ショーケースの上に置かれた黄緑色の宝石に目をやった。


公子の誕生石、スフェーンの持つ『永遠』という言葉が脳裏に浮かんだ。

人間と無縁体の共存、そのために代々登和家はその使命を受け継いできたという。


意味の無い行動を繰り返す無縁体も含め、この世の全てには無意味なものなんて無いのだと、幼い頃から祖父に言い聞かされてきた。


だとしたら。


さっきの、無邪気にはしゃぐ客を前に、黙々とガラスを磨くみが子さんの姿を思い出した。


汚れを取ることもできないのに、磨き続ける彼女の、その哀しいさがにも、意味があるのかも知れない。

いや、意味が無くたっていい、永遠の時間の中に存在する者として、それはそのままでいいのかも知れない。


はぁ、と公子は深呼吸をした。


この問題は、修行中の自分にとって、初めての向き合わなければならない問題なのかもしれない、と公子は思った。


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