第44話:霊の正体

「なになに?きみぽん、やっぱり霊いるの?」


彩芽ママの顔が、訝し気な表情になる。

心霊話にすっかり興味を失ってアクセサリーを物色していた彩芽と千佳は、再び興味深々な表情で公子を取り囲んだ。


「あの…実は、最初にTOKIN’の写真を見て、なんか、知り合いの女性の霊に似てるなって思ってて…」

「”知り合いの霊”とかっているの?きみぽん、なんかすごい!」

「何、きみぽん、さっき居なかったけど、今、その霊が居るの?この店に居るの?」

「…え、まぁ、今は居るね。」


その答えに怯え、二人で手を取り合って店内を見回す彩芽と千佳。半信半疑のまま、不審者を探すような鋭い目つきで見回す彩芽ママ。

三人の視線は、先ほど入ってきた男女の姿で止まった。


「…やっぱり、失恋した女性の亡霊が、幸せそうな恋人たちを恨んで現れてるの?」

「今まで居なかったのに、現れたってことは、そういうことなの??」


彩芽と千佳には、

あれがいい、これがいいと、ショーケースを指さしながら、はしゃぐ姿の後ろに、髪を振り乱した白い着物を着た女が恨めしそうに立っている姿を想像しているに違いない。


「彼女は…その…、そーゆーのじゃなくて…」


突如、店に現れた無縁体には見覚えがあった。


浮遊性の無縁体で、あちこちに出没するので公子も昔からよく知っている顔だった。


公子の目には、普通の人間の女性と変わらないように視える彼女だったが、ショーケースのガラスに不鮮明に映った無表情な顔は、肝試しでライトを顔の真下から照らしたような不気味なものに見えてしまって、怨念でも持っているような顔に見えても仕方のないことだ。


幽霊騒動の正体は、無縁体だった、ただそれだけの事実に少し拍子抜け、いや、期待外れな気持ちを隠せない公子だった。


だが、ここへきてようやく、公子は問題の本質に気付いて悩み始めた。


「でも、どうして…」


無縁体なのであれば、そもそも、”一般の人に無縁体が見える”こと、それ自体が問題になってくるのだ。


しかも、店員や住人には視えず、女子高生を中心とした客だけに視えるというのは、いったい、どういうことなのだろう。

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