第40話:公子の声が伝わる理由(わけ)
「なんか大活躍だったんだって?」
モニター越しの公彦の声が、だだっ広い道場の中に響いた。
内密のはずが、どこからか話が漏れているようだ。
その漏れ処は、母に違いなかった。
公子は、今回の事件解決につながった一連の出来事について、公彦に話して聞かせた。
「靴、赤いハイヒール、どこにあるか知ってる?」
ではダメで、
「靴、赤いハイヒール、これがある場所を、教えてもらえませんか?」
で、無縁体が反応したところが、特に公彦の興味を引いたようで、言い方やトーンを含め、何度も再現させられた。
「”言の葉”を使わなくても言葉が届くというのは、本当ならば確かにすごい。」
公子の能力について、あり得ない話ではないので少し調べてみる、とは言ったものの、用心深い公彦はまだ半信半疑だ。
「言葉が通じたかどうかは別として、意思疎通ができた、ということはおそらく間違いではなさそうだね。」
「でも、反応してくれる時と、完全にスルーされちゃう時があるんだよ、なんで?」
「うーん、その原因は可能性としては色々考えられるけど、きみちゃん自身が、切羽詰まると霊力が上がるタイプ、なのかも知れないね。」
「切羽詰まると?」
「そう、時々そういうタイプの術師がいるというのは聞いたことがあるかな。僕はまだお目にかかったことないけど。」
「私の霊力って…、修行初日に目を閉じて歩いた廊下の長さのこと?母屋の扉にぶつかるまでの…修行初心者歴代最低記録3メートル、っていう、あれのこと?」
「そう、それのこと。」
霊力の計測を目的としない日々の修行の際は、廊下の術を解除してあるため、あれ以来、目を閉じて廊下を歩いたことはない。
「人によっては、発汗量や体温、精神的な切実さなど、何らかの条件を満たすと霊力が爆発する体質、というのがあるらしいから、もしかしたら、言い方や言葉遣いはあまり関係なくて、それを言った時のきみちゃんの霊力が影響してることなんじゃないかなぁ、と…今のところは、考えられるわけだ。」
「切羽詰まると、あの廊下はもっと長く感じる?」
「そういうことになるね。…ちょっと確認が必要かもね。」
そう言って、公彦は明らかに悪だくみをしているような顔で笑ってみせた。
その顔に、公子は背筋がぞっとした。
***
後日、珍しくリアルで修行をつけに来た公彦の容赦ない罠にはまり、切羽詰まった状態の公子は道場に駆け込まされる。
公彦の想定通り、術の施された廊下は3mをはるかに超え、標準的な30mに達した時点で、公子の名誉を守るため、公彦は廊下に掛けられた術を解いたのだった。
扉を開けた公子はお手洗いに駆け込んでいった。
この結果から、公子の『緊急時における霊力の増加体質』が証明された。
その体質に合わせて、修行の後半に用意されたカリキュラム内容が大幅に変更されたが、初級者向けではあり得ないほど難易度の高いものに変えられてしまったということを公子が知るのは、もっとずっと後のことだった。
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