第36話:行動あるのみ

「自分にできることで、誰かのために何ができるか…が、近道か。」


公彦の言葉を思い出して、公子は深いため息をついた。


そんなこと言われても…と公子は思った。

修行での座禅すらも、ろくにできない今の自分にできることなど見当たらない。


「ミテルくんの前髪、ピンで止めてあげたのは、役に立ってるのかなぁ。」


歩道橋の手すりにもたれかかりながら、公子は無表情のミテルの顔を横目でそっと見た。


強風でも揺れないミテルの髪が、風も無いのに少し揺れたように見えた。

公彦がいうところの『異世界』では、今、風が吹いたのだろうか。


そう思いながらふと歩道橋の下に目をやると、またコノさんがすーっと歩道を通っていた。

その先には黒い帽子の男が歩いていて、どうやら、またコノさんはその男の後を追っているようだった。


「あ、コノさんだ。まだ同じ人を指さしてフラフラしてんだ…。」


無縁体の行動は読めない。

もしかしたら、この先何十年もその男の背後から離れないかもしれない。

通り魔事件と関係ないにしても、ずっと同じ男の後を追っているコノさんが公子には少し不憫に思えた。


事件に巻き込まれると危険だから、後は追ってはいけない、と言われた昨日の時任の言葉をちらりと思い出したが、「まだ、事件と関係するって決まったわけじゃないし…」と自分に言い訳をした公子は、


「ちょっとコノさんにくる!」


とミテルに軽く手を振って階段を駆け下りた。


(自分に何ができるかなんて、やって見なくちゃ分かんないもんね。)


ミテルくんもミテルくんなりに誰かが転ばないように見守っていように、もしかしたらコノさんも何か思いがあって彼を追っているのではないか、もし、またコノさんと会話することができれば、何を伝えようとしているのか、自分なら分かるのではないか。

その声を聞くことが、子という名に課せられた役割なら、今の公子にできることは、コノさんの声を聞くことしかないではないか。そう考えながら公子は帽子の男の数メートル後ろから追いかけるコノさんの、さらに数メートル後ろから物陰に隠れながらしばらく追いかけていった。


夕方の人混みに紛れて歩く男を、コノさんは時々自転車にぶつかっては通り抜けながらフラフラと追いかけていた。

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