第35話:公の字の宿命(さだめ)

「公彦兄さん、聞いてる?」


モニター越しにの公子が覗き込んでいる。


「あぁ、聞いてるよ。」


公彦は、誰よりも優秀だった。そして、優秀だった。


だから、この世界には自分がまだ知らないことがたくさんあり、自分には理解できないものがあるということを正しく理解していた。


「『霊の声を聞いて、霊を統べた』と語り継がれる登和家の祖先の高位術者の話を聞いたことがある。」


「霊の声を…?私と同じ?」


「でもそれは、あくまで比喩的な表現であって実際に声が聞こえていたとは記録されていない。」


「じゃぁ、私のは…」


「実際に聞こえているのか、錯覚や気のせい、思い込みによる幻聴、という可能性もあるから、霊の声が聞こえるか、という話と、きみちゃん自身にその声が聞こえているか、の話は別の話になるかな。

 そして、きみちゃんの声が、”言の葉”を介さずに無縁体に反応を呼び起こさせる…。そんなこと可能なのかなぁ。」


(でた、あご指ちょこんポーズ!)


人差し指であごをちょこんと触るのが、公彦が考え込む時の癖だった。


真面目な話の途中にも関わらず、公子はすかさず画面キャプチャを撮る。

修行の傍ら、コツコツとである姉への餌をストックしていくのが、密かな公子の楽しみになっていた。


「んー、とりあえず少し、僕の方でも調べてみるよ。」


「ありがとう。」


「きみちゃんと僕は、”公”の字を背負う者だ。」


公彦は最後に言った。


「”公”の字は、”公”として霊たちに宿命さだめを持っている。」


「知ってる。公僕、つまり、下僕ってことでしょ?」


いつもの自分に対する周囲からの雑な扱いを思い出しながら、公子は不機嫌そうに言った。

公彦はそんな公子を見て、鼻で笑った。


「僕が、君のイメージする下僕に見えるかい?」


「…見えない。」


「誰かにということは、誇り高きことで、責任重大なことなんだ。

 自分の能力を最大限に生かして、顔の見えない相手のために何かできる、っていうのは、一つの才能だと僕は考えてる。だから、きみちゃんも、修行を通して自分の能力を見極めて、自分にできることを探していくことが、今の君の求める回答こたえへの一番の近道になるんじゃないかな。」


***


そう言った公彦の言葉を、公子は思い返していた。

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